月澄む空に137

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 沢村のMLB行きは本当のところ野球をやって来た者としてはものすごく羨ましかった。
 良太も無論頑張ってほしいとは思ったが、比べるべくもないとは思いつつ、MLBで活躍する沢村と自分との間に大きな隔たりを感じなかったわけではない。
 だが、今、このプロジェクトに参加できる、しかもリーダーを任されるということで、沢村との間に感じていた隔たりがきれいになくなった気がした。
 良太は良太の土俵で生きていけばいいのだと、しっかり地に足がついたような感覚だ。
 まあ、だからといってちょっとでも工藤に追いつくとか、先のまた先の話だろうけど。
 クライマックスシリーズは残念ながら関西タイガース二連覇はならなかった。
 日本シリーズまで六日という月曜日、沢村から勢い込んで良太に電話が入った。
「さっき、直ちゃんに聞いたんだけど、例の東洋商事の件、もう佐々木さんにもオファーあって、しかも一年は向こうに来いとかいわれてるって」
「ああ、そうだけど、直ちゃん、佐々木さんが渋ってるのは仕事のことじゃなくて、一年向こうに行くってことで、お前に会えないからじゃないかって言ってたけど」
 オフィスだったので、良太はできるだけ小声で話す。
「あと、やっぱお母さん一人残してってのが心配なんだろ」
「夕べ佐々木さんと会ったけど、東洋商事の話なんか一言もしてなかった」
 沢村にしては沈んだ声である。
「佐々木さん、まだ承諾するか迷ってるからじゃないのか?」
「そりゃ、俺なんか頼りないかもだが、一言くらい相談してくれてもいいと思わないか? てことはもし、一年向こうに行くって佐々木さんが決めたら、その間俺に会えなくてもいいってことだろ?」
 そっちにいくか、と良太はため息を吐いた。
 あの自信の塊俺様沢村でも、佐々木の前だと、こんな風に不安な気持ちになってしまうのだ。
「あのさ、それ多分佐々木さんも不安なんだよ。佐々木さんが話すまでちょっと待ってやれよ」
 そう言ってとりあえず沢村を宥めたものの、良太は気になって出かける前に車の中から直子に電話を入れた。
「今まだ古巣なの。春日さんにちょっとした仕事頼まれてて、佐々木ちゃん」
 さり気に佐々木が東洋商事の仕事をどう考えているかを聞くと、「うん、帰ってきたらちょっと聞いてみる。だってもし佐々木ちゃんが向こうに行ったら、私はどうするかも考えなくちゃだし」
 それを聞くと、そうだよな、と良太も改めて思う。
 直子が一人で事務所に留守番という形になるのか、佐々木も色々と考えなくてはならないことがあるわけだ。
「まあ、今はオンラインで何でもできるわけだから、書類とかは作って送ればいいだけだから、一人お留守番でも私は一向に構わないんだけど、ちょっと寂しいなってくらい?」
 あっけらかんと直子が言った。
 藤堂は行ったり来たりの方法を取ったらしい。
 プラグインはプラグインで、青山プロダクションほどではなくても人手は少ないのだ。

 


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