月澄む空に138

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「佐々木ちゃん、沢村っちに仕事のこと話したみたい!」
 直子からまた連絡があったのは、良太がミーティングを終えてテレビ局を出ようとしていた時だった。
「それでさ、オフにはニューヨークに行くからって沢村っちに背中押されて、佐々木ちゃん、先生に、一年ほどニューヨークでの仕事があるけど、先生一人だから心配だとかって言ったらさ、自分の仕事のことに私を巻き込むなって怒られたらしくて」
「え、そうなの?」
 佐々木の母親はてっきり反対の意見を言うと思っていた良太は、意外な反応にちょっと驚いた。
「一年でも二年でも行かはったらよろし、だって」
 それを聞くと良太は、ババアを見くびるなと言っていた工藤をセリフを思い出した。
「お前、ババアを侮るなよ? 弱弱しく見せるのはやつらの手だし、神経なんかそんじょそこいらの若いやつらなんか到底太刀打ちできない鋼の神経だからな」
 確かに、工藤の祖母多佳子といい、あの佐々木の怖そうなお母さんといい、ちょっとやそっとではびくともしなさそうな人たちだ。
 それでもまあ、年齢のこともあるし、心配にはしんぱいだろう。
 でも長年の付き合いの家政婦さんがいるとか言ってたな、佐々木さんとこ。
 軽井沢の杉田もそうだが、プロの家政婦というのはその家のことや家人のことを知り尽くしていて、頼りになる存在に違いない。
ともあれ、佐々木の心が決まったら、あとは沢村のMLBの移籍が発表になれば、ひょっとして二人は万々歳だと思うのだが。
「茶道師範なら、弟子がたくさんいるだろう。佐々木さんが一年や二年いなくたってどうってことはない」
 良太が佐々木のことを話すと、工藤はそれみたことかとせせら笑う。
 なんか、周りがあくせく心配してるだけみたいだ。
 十月末から始まった日本シリーズでは解説者として沢村もテレビ番組に呼ばれたりで、忙しくしていたが、やがてパリーグ、バッファローズがセリーグ、スワローズを下して日本シリーズを制覇した頃、沢村のポスティングでのMLB移籍を球団側から発表され、野球界やマスコミを大いに沸かせた。
 さらに今年のプロ野球は終わったものの、今度はWBCに向けて栗田監督の元、どの選手が選抜されるか噂が飛び交い、『パワスポ』のミーティングでも優勝だなんだと熱い意見が交わされた。
 一月に監督から選抜予定メンバー三十名が発表されるが、沢村はWBCへの参加を希望しており、正式発表は二月に入ってからになる。
 球団が発表する前に、佐々木にはMLB移籍のことを話したと沢村から良太に連絡が入った。
「ほぼレッドイーグルスへの移籍が決まってることも伝えた。約二年契約ってことも」
「佐々木さんなんだって?」
「そうかって。でも笑ってた」
 どうやらこの二人の間は丸く収まりそうだったが、直子からも良太に連絡がはいって、「ひょっとしたら私も行くことになりそう」と言う。
「春日さんが、佐々木ちゃん一人じゃ心もとないからついていけって」
 住まいは東洋商事の申し出を受けることにしたが、事務所はS&Wコーポレーションが持っているビルに入ることになったという。
  
 

 


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