月澄む空に141

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「俺、たまたま一人でおった時に、黒人の軍団に取り囲まれてもて、向こうは何かぎゃあすか言っとんやけど、俺、何ゆうてるかちっともわかれへんし、小突きよるし、怖うなってもて、にいちゃあーん、助けてやあ、て、でかい声あげたんや」
「え、それで?」
 良太もその展開には驚いた。
「兄貴も気づいて走ってくるし、真矢が起点効かせて、通りかかった警備員つれてやってきてくれて」
 八木沼はため息を吐く。
「兄貴はでかいし、どこにおっても強うて、お前らなにやっとんじゃ、俺の弟に、言いながらやってきて、妹もこれが気い強いから、私ら日本人だけど何か用ですかって黒人軍団につめよったら、軍団のアタマらしいやつが、何か捨て台詞残して行ってもうた。ほんま、怖かったで」
 八木沼は大きな身体で本当に怖そうに言った。
「向こうは、お前を敵グループかなんかだと思ったんじゃね? ぱっと見、アメリカ人にしか見えないしな」
 沢村がせせら笑う。
「笑いごとやないで」
 八木沼は沢村に文句を言う。
 良太もつい笑ってしまいそうなところをぐっと堪えて、「向こうのお母さんは日本語わかるんですか?」と聞いた。
「おかんは、関西弁風な日本語しゃべる。でないと、おとんと結婚とか無理やろ。おとんなんかABCも知らんのやから」
「なるほど、関西弁で育てられたら、英語とかしゃべれませんよね」
 同情的に言う良太に、「生粋の日本人の妹は英語しゃべるんだろ?」と沢村がまぜっかえす。
「真矢は頭のデキがちゃうんや! 美人やし。デキすぎの妹や」
 身体を動かしながら八木沼は言ってから、せや、と沢村を改めてみた。
「MLBなんか自分ひとりで行ったらええのに、何で佐々木さんまで連れて行くんや!」
 八木沼は思い出したように沢村に抗議した。
「仕事だから仕方ないだろうが」
 沢村はしれっと言う。
 この間まで散々騒いでいたくせに、と良太は沢村をちらりと見やる。
「ずる過ぎるう!」
 子供のように喚く八木沼を放って、沢村は走り出した。
 八木沼はどうやらまだ佐々木に未練たらたらというわけか。
 良太は苦笑する。
 たまたま去年CMの仕事の担当クリエイターが佐々木で、会った途端、一目ぼれしてしまったらしい。
 その時はまだ、沢村と佐々木が付き合っていることなど知らなかった八木沼だが、のちに沢村にわざわざそうと聞かされ八木沼は絶望の雄たけびを上げた、という話だ。

 


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