月澄む空に140

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「いや、浩輔、知らん間に営業しよることあるし、案ずるよりっていうやろ?」
 佐々木が慰めるでもなく言った。
「佐々木さんまで、適当なこと」
「大丈夫だって。まあ、何かあったら、河崎に行ってプライベートジェットで飛んでくればいいよ」
 藤堂が笑う。
「またそういう冗談とも言えない冗談を!」
 浩輔が声を上げる。
 冗談とも言えないのは、良太も耳にしたのだが、昨年切羽詰まった案件で、実際藤堂は、オファーしたい大物ミュージシャンを河崎が手配したプライベートジェットで日本に呼ぶというミラクルをやってのけたのだ。
 というのも、河崎の祖父はアメリカ有数の大富豪らしく、河崎が頼めばプライベートジェットくらい簡単に飛ばしてくれるらしい、と良太も聞いた。
「電話とファックスしかない昔ならいざ知らず、今はオンラインって強い見方があるから、そんなに構えなくても大丈夫だと思いますよ」
 良太は言った。
「まあ、そうですけど。佐々木さん、オンラインでSOS出すかもしれませんけど、よろしく!」
 浩輔のセリフに、ああ、そっちが問題か、と良太は納得した。
 何だかここにきて、いろいろなもの、いろいろなことが変わろうとしている。
 今は変わることを恐れずに前に進むしかないだろう。
 やがて十二月に入ると、沢村のレッドイーグルス移籍が発表になった。
「いくら日本で三冠王ったって、沢村もいい年だろ? やれんのかよ」
 『パワスポ』のシナリオライター大山は相変わらず嫌味を言った。
「活躍してくれると思いますけど、まあ、未来はどうなるかなんてわかりませんからね」
 大山の嫌味に対して良太は穏やかに返す。
「なんにせよ、これでうちとしても折にふれて市川を東海岸に派遣できるな」
 沢村のMLB移籍が決まると、実は根っからの野球ファンである殿村は俄然張り切っていた。
「西の大川に東の沢村! 行けるぞお、これは!」
 殿村のみならず周囲やマスコミは感動的な未来を予想して勝手に盛り上がっている。
 今年もまた、『アディノ』の室内練習場で、沢村と自主トレを始めた八木沼は、取材を兼ねて陣中見舞いに訪れた良太に、「沢村がおらんと、プロ野球、どないなってまうんやろ」などと大きな体でこぼした。
「何言ってんだよ。若い連中が出てくるに決まってるだろうが」
 それを沢村が一刀両断に切る。
「八木沼さんはMLB挑戦とか考えないんですか?」
 良太が聞くと、八木沼はちょっと小首を傾げた。
「せやなあ。もちょい、活躍せんと、とてもそない大それたことよう言わんわ」
「おい、プロ野球を背負って立つお前がそんなことでどうするよ!」
 沢村がまたきつく言葉を投げかける。
「そうかてなあ。俺、英語もちんぷんかんぷんやし、あないな怖い国で生きてけるか、思うたもん」
 八木沼の発言はあくまでも消極的だ。
「でもオフに、留学している妹さんや、お母さんらに会いに行ったんでしょ?」
「そらな。ディズニーランドとかめっちゃおもろかったで? せえけどな」
 良太が聞くと、ちょっと八木沼も笑った。
「何かあったんですか?」
 


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