月澄む空に35

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「いや、まだわからないんですが」
 そう前置きして、良太は小宮山の黒幕かも知れない富田とこの女の子がよからぬ相談をしていたという話をした。
「なるほど。その画像、俺にも送って」
「わかりました」
 良太は天野に画像を送ってから携帯の時刻を再び確認し、「六時半か」と呟いた。
「え、何かあるの?」
「ああ、ニューヨークから戻った工藤が羽田に着いたはずで」
「じゃ、迎えに行くとか?」
「これから別のアポが入っているらしいんで」
 工藤は美聖堂の斎藤と今夜会う予定だ。
 東洋商事とともにこのドラマのスポンサーでもある美聖堂は、青山プロダクション創設以来の大事な後ろ盾だ。
 社長の斎藤は工藤とともに山内ひとみも気に入っていて、年に何回かは顔を合わせる間柄だ。
 東洋商事の綾小路紫紀と同様斎藤からの誘いがあれば、都合がつく限り工藤は出向いているが、ニューヨークから帰ってすぐ斎藤の相手はきついだろう。
 斎藤と工藤とひとみ、ウワバミばかりで、一度酒の席に付き合わされて潰れたことがある良太はできれば避けて通りたいメンツだ。
 とはいえ斎藤は良太のことも気に入ってくれているので、酒の席でなければいくらでも出かけていくつもりでいるのだが。
「ほんと、工藤さんも良太さんも忙しいですよね」
 天野が呆れたように言った。
「うちは年がら年中人手不足なんで、仕方ないんですよ」
 良太は苦笑した。
「仕事ばっかじゃ息切れしますよ。また飲み行きましょう」
 天野の誘いに、良太はそうですね、と答える。
 出会った頃の睨むような視線を思い出すと、随分近しくなったと良太は思い返した。
 何とか撮影が終了すると、俳優陣やスタッフが帰っていくのを見送ってから、良太と森村、それに加藤らもようやく帰途につく。
 谷川から電話が入ったのはそろそろ会社に着く頃だった。
 良太は駐車場へとハンドルを切りながら、電話に出た。
「え、轢き逃げ犯わかったんですか?」
 谷川の話では、小宮山の足取りを追っていたところ、飲み屋で一緒にいた男が須田と呼ばれていたということを掴み、その人相風体を飲み屋の主人に聞くとひょろっと背の高い痩せぎすの男で、黒っぽいキャップを被っていたという。
 そこで渋谷警察署にいるかつての同僚に須田という男について聞いたところ、杉並辺りで窃盗の前科のある須田紘一ではないかという情報を得たという。
「この男か」
 駐車場に車を停めると、谷川から送られてきた男の写真を見て、良太はぼそりと言った。
 谷川は明日、また飲み屋の主人に確認してみると言っていた。
 気が付くともうそろそろ日付が変わろうとしている。
 良太は車を降りるとたったか部屋へと上がった。

 


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