焦りを覚えていたのは良太だけでなく、吉祥寺を後にした工藤もイラついていた。
小田からも富田と小宮山の関係が今一つ確証を得られないと言われている。
ニューヨークで轢き逃げ事件のことを聞いた時は、肝を冷やしたと同時にまた良太が何か首を突っ込むのではないかと、そのことが心配だった。
自分への恨みで良太に危害が及ぶなど、金輪際ごめんだった。
斎藤との約束はニューヨークに発つ前で、小宮山が入院したためにドラマを降板したくらいの話だったので羽田から料亭に出向いたが、斎藤から、「忙しすぎるんじゃないか? 今夜は上の空だな」などと指摘され、部屋に戻ったのは夜中を過ぎていたが、どうしても良太の顔を見たくなって呼び出したのだ。
良太の顔を見たら、つい勢いに任せてやり過ぎてしまった、と少々反省はした、のだが、そんなものはすぐ忘れていた。
ったく、紺野さんの仕事じゃなきゃ、バックレてるところだ。
工藤は苦々しい顔でハンドルを切った。
吉祥寺のロケが終わったのは午後九時を回ったところだった。
昨夜と同じように、片付けを手伝いつつ俳優陣やスタッフが帰っていくのを見届けてから、良太や森村も自分の車へと戻っていく。
「お疲れ様です」
ショートワゴンに乗り込んだ森村の車が先に出て行くと、良太も車に乗り込もうとしたその時、「良太さん」という声に振り返った。
「天野さん、どうしたんですか?」
帰ったはずの天野がそこに立っていた。
「撮影、来週までないし、ちょっとだけ付き合ってください」
にこにこと天野は言った。
「え、でも俺、車だし」
「青山プロダクションの傍ならどうです?」
マネージャーの船岡が天野を送ってきていたはずだが、先に帰したのだろう。
「ちょっとお話もあるんで」
十時前だし、会社の傍ならいいか、と良太も天野を断り切れなかった。
「すみません、ちょっとだけ待ってていただけますか? 猫にご飯やってきますから」
会社の駐車場に車を入れると、良太は天野にそう言って部屋に上がった。
「何だろう、話って」
小首を傾げつつ、猫にご飯をやり、さっとトイレもきれいにすると、良太はまた部屋を出た。
「近くに『のぎざか』って居酒屋ありますよね」
天野の言う『のぎざか』は最近できた居酒屋で少し価格帯は高めだがテーブルも広く、パーテーションで仕切ってあるので他の客に邪魔されることも少なく、ビジネスマンらには人気の店のようだ。
「ああ、あそこ、一度モリーと行ってみようって言ってたんですよ」
会社から三分ほどのところにあり、木調のドアは大きく、洗練された内装は女性にも人気のようだ。
二人は奥のテーブルへと案内された。
「和牛ステーキとシーザーサラダがおススメらしいです」
天野はメニューを見ながら言った。
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