月澄む空に40

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 ポケットから携帯を取り出すと、良太は自撮り画面にして背後のようすを伺った。
 加藤らから送られた富田の画像を思い出すと、テーブルは離れているが確かに当人だ。
 女の子と二人でぱっと見は他の客と変わらない。
「あの子、例の要注意画像の子だ」
 ステーキを口に運びながら天野が言った。
 その時、良太の携帯に加藤からラインが入った。
『お前ら二人店に入ってから、富田と女が追いかけるように入った。何かやらかすつもりかも知れないから、気をつけろ』
 加藤は撮影が終わってからも、おそらく富田を見つけたからだろう、ずっと張り付いてくれているらしい。
「天野さん、気を付けてください。あいつら、天野さんに何か仕掛けるつもりかも知れません」
 良太は小声で、ただはっきりと天野に伝えた。
『今俺も店に入った。良太、とにかく下手に動くなよ』
 また加藤からラインが入った。
 ほんとに加藤にしろ工藤にしろ、動くな動くなとくどい程良太に言ってくる。
 良太としてはそれが今一つ気に入らないのだが、いずれにせよ天野に何かないように断固として防がないと、と思う。
「ここはとにかく食べ終わったらタイミングを見て出ましょう」
「わかった。ここからだと富田の動きがよくわかるし、大丈夫」
 天野は笑みを浮かべた。
「何か仕掛けてきたら逆に取り押さえてやるんだけど」
 良太はちょっと息を吐く。
「天野さん、刑事じゃないんだから」
「腕には割と自信ありだけど?」
「何かやってたんですか? 武道とか」
「高校までは剣道やってた。一応段持ち」
「そうなんですか? じゃ、千雪さんといい勝負かも」
「え、千雪さんって、原作の?」
 聞き返されて、良太はしまった、と自嘲する。
「ああ、そういうのあの先生、あまり知られてないんですけどね」
「へえ、何か意外だな。今度会ったら聞いてみよ」
 良太はハハハと空笑いする。
「まあ、剣道は別として、俺、田舎の悪たれだったから喧嘩には負けたことがないし。よく見た目怖そうって言われてたけど、もろそのまま」
 ドヤ顔で天野は言った。
「いや、わかりましたけど、そういう特技は発揮しなくていいですから」
 良太は頷きながら天野を宥めると、「そろそろ出ましょうか」と立ち上がった。
「じゃ、また今度仕切り直ししましょう」
 笑顔で言うと、天野はちらっと富田のテーブルに視線を走らせた。
 良太が会計をしている時も天野は良太の傍を離れず、一緒に店を出た。
 二人は少し歩きながら、タクシーを待った。
「くれぐれも気を付けて」
 良太はやってきたタクシーを拾うと、天野を乗せて念を押した。
「良太さんも気を付けて」
 ドアを閉めると、タクシーが走り出したのを見送ってから、良太は会社へと足を向けた。
「あ、加藤さん、天野さんの乗ったタクシー、追えますか?」
 歩きながら携帯で加藤を呼び出した。
「そこは抜かりない。白石が帯同してる」
「ありがとうございます」
 この時間はまだ、通りには乃木坂の駅へ向かう人の群れだけでなく、これから六本木方面に繰り出そうという若者たちの一団もある。
 若者とすれ違って少し歩いた時だ、良太の目の前で急に女性が蹲った。

 


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