根が気のいい良太は、すぐに駆け寄って、「どうかしましたか? 大丈夫ですか?」と声を掛けた。
その時ふと、以前にも似たようなことあったなと、良太の中で警鐘が鳴ったのだが、呻いている若い女性を放っておくわけにもいかず、肩に手を触れた。
「いやっ! 離して!」
途端、蹲っていた女が立ち上がって喚いた。
「この人、痴漢です! さっきから私の後をついてきて、嫌だっていうのにあちこち触って!」
「ちょ、何言って………」
その時ようやく良太ははめられたことに気づいた。
痴漢だと喚いた女は、例の藤堂が送ってきた画像の女だったのだ。
天野や他の俳優陣、スタッフに何か仕掛けるんじゃないかと思っていたのだが、よもや自分に仕掛けてくるとは。
あのハロウィンの夜は魔女おばさんだったが、今思えばこの女よりはまだマシだったかもしれない。
「こいつ、痴漢かよ!?」
「警察突き出してやる!」
周りにいた俄か自警団らがたちまちのうちに良太の腕を掴んだり、中には頭を殴ったりする男もいた。
要は誰かを叩きつぶしたくて仕方ない風潮の世の中で、恰好のカモにされてしまったというわけだ。
良太は男たちに囲まれながら、頭の中では冷静にそんなことを考えていた。
「君たち、退いて」
しかも異様に早い警察登場。
明らかに仕組まれていたらしい。
「ちょっと、俺はそんなことやってませんて」
無駄と知りながら良太は喚いた。
だが警察官は全く取り合わない。
「はいはい、大抵そういうんだよね、何かやらかすと」
六本木交番に連行された良太は、ともかくこの状況をどうやって打破するかを考えていた。
「こいつ、ずっと私の後をつけてきて、べたべた触って、もうキモいったら!」
どうやら俳優の端くれらしい女はべらべらと散々見てきたようなことを言う。
一緒についてきた目撃者なる自警団連中も、「こういうやつがいるから、世の中ダメになるんだ!」まで言い出して、埒が明かない。
「名前は?」
警官が凄んで聞いてくる。
「小田弁護士、呼んでください」
「ああ?」
「弁護士がくるまで何もしゃべりません」
「何だと? クソ生意気に! とっとと名前を言え!」
さらに声を大にして警官が怒鳴る。
「ほんとこれだから、警察とか信用ならないって、千雪さんの言う通りだな」
良太はブツブツと口にする。
痴漢の濡れぎぬって晴らしにくいらしいし、どうしたもんか。
「何をブツクサ言っとるんだ! 名前を言え!」
警官がさらに喚いた時だ、「その人は痴漢なんかじゃありませんよ」という声とともに人だかりより頭一つ大きな影が中に入ってきた。
良太は驚いた。
「え、どうして……」
天野、と言おうとして口を噤む。
だがこの人を知らない人間の方が少ない気がする。
「おい、何だよ、天野じゃね?」
「天野? 俳優の?」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
ぎゃあぎゃあ喚いていた女も天野の登場に、ぽかんと口を開けて見上げた。
「俺と飲んでて別れたばかりなんで、その女をずっとつけてきたとか、あり得ないし」
天野はギロッと女を睨みつけた。
「何? あんた、こいつの友達とか? だけどこの女性がそう言っているんだから」
「女性がほんとのことを言ってるって、どうしてわかるんです?」
警官をも見下ろしながら、天野は詰め寄った。
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