「あ、あたしは嘘なんか言ってません!」
「彼がこんな女に手を出すとか、まず、あり得ない!」
泣き叫ぶ女のセリフを天野は断固としてぶった切った。
「しかしねえ、君、現に被害者が……」
「被害者なんかであるわけがない。この人は俺の恋人なんで」
一瞬、周りの視線が天野に集中した。
「は?」
良太も思わず天野を見上げた。
この人、って、え、俺?
天野さん、何言ってんの?
状況を把握できず、冷静だった良太の頭が唐突にパニクった。
「俺の言ってること、わかりますよね? お巡りさん。この人は俺の恋人なんで、こんな女に、この女が言ってるような意味で触るとかあり得ない!」
まるで舞台上でハムレットだか何だかがとうとうとセリフを決めているかのように、大柄なせいもあってそれは迫力があった。
周りの観客はひと時呆気にとられたように天野をみつめた。
「って、ちょ、あ………、何、言ってんですかっ!」
ようやく我に返って良太は少し天野を睨みつけるように言った。
おそらく自分を助けようとしてくれているのだろうことはわかったが、そのためにとんでもないことを口走っているって、マスコミが嗅ぎつけたら恰好の餌食だってわかっているんだろうかと。
「失礼しますよ」
その時、突っ立っている観客の間から現れたその後退しつつある額が交番の灯りに輝くように見えて、良太には神々しくさえ思われた。
「小田先生!」
神様仏様とはよく言ったもので、良太はつい手を合わせたくなった。
「その彼の理由とはまた違う理由で、こっちの彼の無実を証明しますよ。説明するよりまず、これをご覧ください」
小田の後ろに控えていた遠野がすかさずタブレットを開いて警官に見せた。
「あの坊やをちょっと誑かしてやればいいんでしょ? ちょろいわよ、そんなの。あたしだって女優の端くれなんだから」
突然、タブレットから声がした。
それもどこかで聞いた声だ。
「それより、大丈夫なんでしょうね、富田さん、オカネの方は」
「がめついやつだな。前金は渡したろう。あとは首尾よくいってからだ」
どこかで聞いたような安っぽいサスペンスドラマのようなやり取りが展開されたところで遠野は別の動画を再生した。
「どうかしましたか? 大丈夫ですか?」
え、俺の声?
良太はタブレットを覗き込んだ。
「いやっ! 離して!」
さっきのシーンがまるでドラマのように再生されている。
「この人、痴漢です! さっきから私の後をついてきて、嫌だっていうのにあちこち触って!」
「ちょ、何言って………」
そこからは俄か正義の味方がわらわらと寄ってきて、良太を小突いたり殴ったりしているうちに巡査が現れて連行されるまでが映し出された。
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