「はい、盗まれた車からは須田の指紋やDNAが採取されましたし、須田としては自分が轢いたんじゃない、小宮山が自分から当たってきたんだと主張して、保険撮っておいたらしいドラレコのデータも押収してあります。あと、スナックから採取した指紋と小宮山の指紋を照らし合わせたところいくつか一致しました」
そこで一旦言葉を切ると田島は今度は工藤に顔を向けた。
「それにしても工藤さん、富田のことをもっと早く教えていただければ。小宮山も吉崎も、富田からは工藤さんへの恨みつらみを散々聞かされたそうですよ」
工藤はムッとした顔のまま、「富田だという確証はなかったので」とだけ言った。
「MBC局の頃から、後輩である工藤さんに仕事上でも追い越されて、独立してからも工藤さんの会社は業績が上がるばかりなのに対して、富田の会社は経営からしてかなり危ない状態で、小宮山の話だと、富田の会社に所属する若手女優がオーディションで落ちて、おたくの南澤奈々さんに決まった頃から、工藤さんや青山プロダクションに対して、今にぎゃふんと言わせてやるって息巻いてたらしいです」
田島の話を聞いていて、オーディションというのがいつぞや谷川がインフルエンザにかかり代わりに奈々を連れて行った時のことではないかと、良太は思い当たった。
それ以降奈々がオーディションを受けたことはない。
あの時は、有名な脚本家が良太を俳優と勘違いして逃げ出すのに一苦労したことしか、良太は覚えていない。
トミタエンタープライズという名前も今一つ記憶にない。
ひょっとしてあの場に富田も居合わせたのだろうか。
それで俺に、吉崎を使って仕掛けてきたというわけか。
「理由は何にせよ、逆恨みで轢き逃げをでっちあげるとか悪質です」
小田が強い口調で言ったのに続いて、天野が口を開いた。
「広瀬さんに痴漢の濡れ衣を着せようとかもあり得ない。重罪でなくとも信用問題にも直結するし」
すると田島は天野を見て、「天野さんでしたか? 俳優の。交番で広瀬さんは恋人だとかおっしゃったのは広瀬さんを庇ってのことだったんですね? 皆さんちょっと驚いてましたよ。人気俳優さんですし、それこそSNSとかで拡散すると大変じゃないですか?」と苦笑いした。
田島の話の内容に、工藤は天野を振り返った。
「俺は一向に構わないですけど。むしろ話題になった方が番宣にもなるし。ああ、でも広瀬さんにはご迷惑かもでしたね」
天野は良太を見た。
「いや、俺のことより、やっぱまずいんじゃないですか? 天野さん」
「そもそも何で、天野がここにいる?」
工藤の鋭い眼光が天野に向いた。
「俺も富田のことでちょっとした話を聞いたんで、撮影のあと良太さんと飲んでたんですよ」
天野は工藤の強面にも怯まず視線を外すこともなく、卒なく答えた。
「ほう?」
工藤はあらためて天野という男をしっかと認識した。
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