月澄む空に47

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 工藤はバックミラー越しに天野を一瞥した。
 こいつ、素直に引き下がったような顔で良太を軽くあしらっているな。
 天野が良太に向けているのは敵意などではなく好意なのだろうと、工藤は見て取った。
 むしろ俺に挑戦的な顔をしたのは、何か気づいているのかも知れない。
 案の定良太は天野がそういう目で見ているなど考えてもいないんだろう。
 仕事に対しては結構目が利くようになったのに、そこのところは未だに甘いんだ。
 さらに前の車がとろついて信号が黄色に変わったことにイラついて、工藤は眉を顰めた。
 良太は工藤がイラついているのを察知して、「でもよかったですよ、犯人捕まって。俳優さんもスタッフも今度は何が起きるんだとかってどこかでピリピリしてましたからね」といい話題を振った。
「小宮山さんが早々にリタイアしてくれてむしろ助かりました。放映始まってから醜聞で降板するとか、冗談じゃないですし」
「西野はよくつかまったな」
 志村とよく共演する西野了は引く手数多のバイプレーヤーだ。
 人柄もいいし、無論演技も確かだから、急なオファーには応えられないことの方が多いと聞く。
「ライトの落下事件が起きて割とすぐ、俳優さんの間から小宮山さんのことであまりよくない噂を耳にしましたからね。確証はなかったけど、とりあえず西野さんに打診しておいたんです」
 天野は良太の話を聞きながら、西野とちょっと話をした時のことを思い出していた。
「思い切りのよさは鬼の工藤譲りだね、良太ちゃんは。それにさ、強面の工藤さんとは違って人当たりがいいってか、いい子だからさ、良太ちゃんに頼まれると嫌っていえないんだよね」
 西野はそんなことを言って笑っていた。
 船岡が一目も二目も置くという工藤がドンと構えているからこそなのだろうが、良太は俳優陣にもスタッフにも評判がよく可愛がられている。
 誰でも好きになるよな。
 天野は心の中でこそっと呟いた。
 天野にとって因縁の相手だったはずの良太だが、今になって思えば、それこそピリピリして圧迫感がありそうな自分より、初心者であろうと柔軟な良太の方が気に入られたのかも知れないと思う。
「ひとみのようすはどうだ?」
「全然張り切ってますよ。ライトの事件があって心配しましたけど。千雪さんがあてがきしたわけじゃないでしょうけど、もう六条渉そのものって感じ」
 それを聞くと工藤はフンっと笑う。
 千雪も案外ひとみをイメージして書いたのかも知れないと工藤は思う。
 西ノ宮健は知ってるものなら黒岩研二そのものだと思うに違いない。
 研二に雰囲気が似ている天野を良太が起用したのもわからないではない。
「たまには撮影を覗きに来いって千雪に言っておけ」
「ちゃんと伝えてるんですけど、迎えに行かないと千雪さん、来ませんよ」
「小林千雪先生とは親しいんですね? お二人とも」
 二人のやり取りを聞いていて天野が口を挟んだ。

 


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