「うちとは最初に映画化させていただいた頃からのつきあいのようですよ。俺がまだ入社する前ですね」
良太が無難に答える。
千雪と工藤のつきあいとか考えただけで面倒になるからだ。
「そのうち撮影にも来ていただきますから、ご紹介しますよ」
「よろしくお願いします」
そうこうしているうちに車は三軒茶屋に入った。
「次の信号左です」
世田谷通りに入ると良太が天野のマンションを工藤に説明した。
「天野さん、引っ越しの方はどうなったんですか?」
工藤がマンションの前に車を停めると、良太が聞いた。
「ああ、それが決まりかけてたとこが、ちょっと難ありってことがわかって、また探しているところです」
そう言いつつ、天野はドアを開けた。
「そうでしたか。じゃ、本当に今日はお疲れ様でした。また明後日、よろしくお願いします」
「はい、失礼します」
天野がマンションのエントランスに消えると、工藤はエンジンをかけた。
「天野はまだこんなマンションに住んでいるのか。セキュリティもプライバシーもなさそうだ。とっととマシなところへ越した方がいいな」
工藤は築数十年の賃貸だろうマンションをちらりと見上げて言った。
「そうなんです。前には誰かにつけられてるって言ってたし」
「フン、マスコミもだが、女のファンなんかも厄介だぞ。ストーカー染みてくる場合があるし、それこそ妙な事件を起こされたりとか、面倒ごとに巻き込まれることもある」
アイドルでなくともあの手の実力派で年齢も落ち着いたイケメンの人気俳優には狂信的なファンがつくことがある。
「杉村孝臣、何年か前、騒ぎがあったろう」
「ああ、人気俳優の。そういえば、何かありましたね、女性関係でもめたとか」
「杉村は女遊びも派手だとかマスコミがやり玉に挙げてたが、本人はオープンなだけで根は真面目な奴だ。それが女のストーカーが自分が彼女だとか騒いだことで事務所も入って揉めたらしい」
「え、そうだったんだ。杉村さん被害者じゃないですか」
女好きな派手な俳優という認識だった良太は杉村が気の毒になった。
「天野も似たタイプだから、気をつけるに越したことはない」
「そうですね、あんまり仕事以外無頓着な人ですけど」
良太は次の撮影の時にでも話をしようと頷いた。
「あれ、撮影の方、行かなくていいんですか?」
車がいつの間にか会社の駐車場に滑り込んだところで、良太が聞いた。
「ああ。警察なんか長居するとこじゃない」
「はあ」
車を降りながら、そうだよな、と工藤が冤罪で拘留された時のことを良太は思い出した。
二人でエレベーターに乗ったところで、良太の携帯が鳴った。
「あ、お疲れ様です。はい、ええ、そうなんです。これで一気に解決ってことにしてもらいたいです」
相手は藤堂からだった。
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