良太がオフィスに戻ってきたのは午後三時を過ぎてからだった。
「ああ、疲れた~」
良太は自分のデスクの椅子にへたり込んだ。
「ちょうどお茶にしようと思ってたとこなの。さっき直子さんが書類を持ってらして、お土産にチュークリーム、いただいたのよ」
鈴木さんがいそいそとキッチンから淹れたてのコーヒーとシュークリームを持って窓際のソファに向かう。
「うう、シュークリームで疲れも吹っ飛びそう」
美味しいものと聞けば動かざるを得ない。
良太は鈴木さんの向かいに座った。
「いただきますぅ」
良太がシュークリームに噛りつくのをみながら鈴木さんがフフッと笑う。
「え、何ですか?」
「クリーム、ついてるわよ」
鈴木さんが自分の右の頬を指で示した。
良太は言われてクリームを指で取ってなめる。
「ほんと、良太ちゃん、入社したての頃と同じなんだもの」
また笑われてしまった。
「ちぇ、どうせ成長がないってんでしょ」
「あら、いいのよ。良太ちゃんが変に大人ぶってたらそれこそ変だもの」
良太は思わずかくっと頭を傾げる。
「大人ぶってって、一応、俺、アラサーなんですけど」
すると鈴木さんにまた笑われた。
まあ、面接の時には高校生が混じってるのかと思ったなどと言われた鈴木さんには何を言っても敵わないということだろう。
「でも、検査とかって疲れますよね~、待ってる時間のが長いし」
「よかったじゃない。何も悪いところがないってわかったんだから」
「まあ、はい」
朝は宣言通りに工藤に起こされ、冷蔵庫にあったパンを焼いてコーヒーで流し込んだくらいで工藤の車で横浜厚生病院へ連れていかれ、工藤の大学の同期である外科部長直々にCT検査までしてもらったのだ。
工藤は先にプロデューサーの黒田との打ち合わせに出向いたので、良太は検査が終わってからタクシーで帰ってきた。
電車で帰ってもいいかなどと考えていたら、工藤が病院を出がけに、「タクシーでもどれよ?」と念を押していったので、その命に従ったわけだ。
「何か、大変な目にあったんだって? SNSで見たよ」
シャーカステンの画像を見ながら石川が軽く言った。
「え、先生もSNSなんて見るんですか?」
ちょっと驚いたように良太は聞き返した。
「おいおい、俺はそんなに年寄りに見えるか? いや、今時年配の人に失礼か。年配のご婦人なんかもSNSで推しサーチとかやってるからな」
「ああ、そうですよね、うちの鈴木さんもたまに携帯で見てますもん」
それこそご婦人は老若関係なく、推し活は人生に必要不可欠なものらしい。
「いや、もとはと言えば、工藤への恨み妬みが根源だったんだろ? それに良太ちゃんまで巻き込まれて、ほんと災難だったよね」
看護師の前では広瀬さんと呼んでいたのに、二人で話すとなると、この石川までが良太ちゃんだ。
また気になることがあったらいつでもおいで。
石川にそう言われて送り出されたが、できればもう行きたくない場所だ。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
