月澄む空に51

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 とはいえ、工藤がまた何かで引っ掛からないとも限らないし、良太など何度気づいたら白い天井を見上げていたなんてシチュエーションがあったことか。
 ちぇ、俺だって好きで殴られたりするわけじゃないし。
 腕っぷしが強ければボコボコにされたりしないんだろうけどさ。
 SNSで気になったのが、天野の恋人宣言だ。
 ただ、こっちは動画ではないし、おおかたがどうやら濡れ衣をかけられた友人を助けるためにわざとそんな宣言をしたようだという、もっともらしい話にすり替わっていて、むしろ天野をヒーロー扱いして擁護している記事がほとんどだ。
 多分、これ有難い天野ファンなんだろうな。
 もちろん、逆にアンチ的に天野を叩く記事も目に付いたが、そこは逆に人気のバロメーターと思った方がいい。
 ネットでの誹謗中傷や個人攻撃は言語道断だが、完全になくなることはないだろうし、受け取る側が取捨選択しないと潰されてしまう。
 今回、良太がもろはめられたとわかる動画があったからまだいいようなものの、もし痴漢の濡れ衣を着せられたまま、それが拡散したらと思うとさすがに良太もぞっとする。
 にしたって加藤さん、証拠能力はおいといても確証を得たいがために、俺を人身御供にしたよな。
 ちょっとそれは良太も腹が立つ。
 が、まあ、それで事件解決の糸口になったんならよしとするか。
 ぼんやりそんなことを考えながら窓の外をみると、何かの絵でみたような雲が青空にぽっかりと浮かんでいる。
 こんなのどかな時間がもっとほしいよな。
 工藤も、また最近オーバーワークだし。
「たまには、こんなうららかな日にぼおっとしているのもいいわよね」
 鈴木さんも似たようなことを考えていたらしい。
 と、良太の携帯がワルキューレを奏でた。
「はい、お疲れ様です」
「あの黒田ってやつは使えないな。とりあえず、西野で小宮山よりずっとスムースにいってるから問題ないって言っといた」
 工藤は苛つきをにじませつつ言った。
もう黒田との打ち合わせは終わったようだ。
「検査は終わったのか?」
「はい、全然OKでした。今オフィスです」
「用心するに越したことはない。今日はもう上がって休め」
「え、別にデスクワークくらいできますから。ちょっとたまってるし」
 夕べも添い寝をしてくれるのは有難いような情けないような気分だったが、香坂と一緒に捕まって殴り倒された時から、工藤の良太への心配は過剰なような気がしていた。
 そりゃ、嬉しくないわけじゃないけどさ。
 仕事に支障をきたさないかとそっちの方が心配になる。
「フン、適当なところで切り上げろ」
 ちょっと不服そうな声で工藤が言うと、携帯は切れた。
「工藤さん?」
 トレーにカップなどを乗せてキッチンに向かいながら鈴木さんが聞いた。
「ええ、今日はもう上がれって言われても、書類もため込んでるし」
「工藤さん、心配なさってるのよ、良太ちゃんのこと」
「それは有難いんですけど」
 自分の仕事こそセーブしたらどうだよ。
 良太は心の中でぼそりと呟いた。

 


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