月澄む空に6

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「鈴木さんにお土産何にしようかって」
 良太はさり気に話題をそらして、目の前の温泉まんじゅうを手に取った。
 大浴場は、昨日の工藤のお陰でちょっと遠慮したい理由が良太にはあり、部屋風呂に入るつもりでいた。
「おう、それ、いんじゃね? 美味そうじゃねぇか」
 地酒を見ていた下柳が言った。
「じゃあ、これにします」
「そういやあ、モリー、いよいよ正社員になるって?」
「あ、そうなんですよ。日比野さんがうちで正社員になった方が、生活も安定するだろうって、工藤さんに相談してくれたみたいで」
 モリーこと森村繁久は、映画『大いなる旅人』の撮影で日比野監督のつてでADをやっていたのだが、撮影が終わった後、日比野監督が必要な時にはいつでもADの修行に貸し出すという条件で、今年初めに青山プロダクションにアルバイトとして入っていた。
 よく動く明るい元気印の森村は、唯一良太さんと呼んでくれる後輩だったし、良太としても初めて新入社員を迎える立場となるのが嬉しかった。
 今頃森村はオフィスでサイトの更新や、IT関連の作業をしているはずだ。
「なんなら俺がみっちり仕込んでやるから、またモリー連れて来いよ」
「それは心強いです。ありがとうございます」
 下柳の有難い申し出に良太は礼を言った。
 下柳にしても日比野にしても森村を育てようという意気込みが伝わってくる。
「おっと、これから飲み行くんだ。良太ちゃんもどう?」
「いやちょっと、今日は疲れてるし、遠慮しときます」
「そうだな、一人で車飛ばしてきたんだもんな。今夜はゆっくり休みな」
「はい、ありがとうございます」
 下柳の誘いをかわして良太は土産を買うと自分の部屋に戻った。
 ゆっくり風呂に浸かった後、ビールを片手にタブレットを開き、進捗状況をまとめていると携帯が鳴った。
「はい、お疲れ様です」
 工藤からの電話で、良太はまた何か面倒ごとでもあったのかと構えて電話に出た。
「撮影はどうだ?」
「はい、新田さん、しゃべり慣れているみたいで、思った以上に順調でした。あの、何かありましたか?」
「ああ、六条の方は、ひとみがいつになくまともにやってる」
 今夜は『検事六条渉』の撮影があり、工藤は久々顔を出すと言っていたが、前々から良太が報告しているように、主演の山内ひとみの意気込みが違うのを工藤も実感したのだろう。
「天野さんもひとみさんと息ぴったりですよね? 絶対ベストキャストだと思います」
 今まで立ち会った撮影でも、ひとみと担当刑事役の天野右京のまるで何年もずっと一緒にやってきたかのような掛け合いといい、十二分に千雪のいう重厚な面白さのクライムサスペンスになっていると良太は思う。

 


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