「それに、四ノ宮ってモデル、和菓子職人の黒岩さんって、良太さん、知ってました? 交流会にも来てましたよね? 俺、あの人絶対ただものじゃないって思ったからすごく覚えてるんですよ。柔道の有段者ってやっぱりって感じですよね」
「ええ、そうですよね」
千雪が知り合い意外にそんな話をしたのかと、良太はちょっと意外に思う。
「あ、お二人、撮影終わったら、工藤がどこか行こうっていうんで、よろしく」
「え、俺はパスるで?」
「いいじゃないですか。たまのことだし、もう頭数に入ってますから」
慌てて拒否ろうとした千雪にきっぱり良太は言った。
「お前、そーゆー強引にことを運ぼうとか、社長のマネせんかてええんやで?」
「だから社長と一緒にしないでくださいってば。それに、千雪さん、何か予定があるんならビシッと断るでしょうが」
千雪は行動を良太に読まれてムッとするが、実際のところ飲み会などただ面倒臭かっただけなので、強く否定もできない。
撮影が終了した九時過ぎには、俳優陣スタッフ合わせて総勢二十三名ほどが、近くにある居酒屋に繰り出した。
スタジオに近いため、よく打ち上げなどでも使うことのあるこの店は、知名度のある大衆居酒屋より少しばかり値がはるが、店内はきれいで、女性にも評判がいい。
いくつかに分かれた座敷は、椅子のように足を降ろして座れるので、足がいびれる心配もない。
急な依頼だったが予約が取れたのはタイミングがよかったようだ。
六名ほどずつ四つのテーブルに分かれて座ったが、山根監督や工藤に加えて、その高らかな笑い声が工藤を苦虫を嚙み潰したような顔にさせるひとみや西野と照明の尾形が陣取ったテーブルにはもう誰も近づこうとしない。
俳優陣もスタッフも若手は若手で固まり、千雪と天野が座るテーブルには、ひとみのマネージャー須永に良太、森村の隣には脚本家の久保田が座った。
「あれ、久保田さんは向こうのテーブルじゃないの?」
からかうように割と長い付き合いの須永が言った。
「勘弁してよ。俺、山根さんよりは少し若いし」
飄々とした雰囲気だが、時折、急にペンを走らせたりするので、周りに驚かれることがある。
山根と久保田は、ここ数年多喜川誠と青山プロダクションの志村嘉人がダブル主演を務める『老弁護士シリーズ』でチームを組んできたが、引き続きこの新しい『検事六条渉』でも工藤とともにタッグを組み、既に水面下ではシリーズ化を狙ってプロジェクトが進んでいる。
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