「申し訳ございません。今さっき、工藤から電話で、急な案件が入ったため戻れないと連絡があり、君塚さんがいらしたらそうお伝えするようにと」
すぐに気を取り直して、良太は努めて冷静に言った。
「お邪魔しました」
代理店の担当者とディレクター二人が暇を告げると、秋山もアスカを急かしてオフィスを出て行った。
「あ、どうぞ、こちらへ」
すかさず鈴木さんが片付けた窓際のテーブルへ良太は君塚を促した。
「すみません、お忙しいところにお邪魔しちゃったみたいで」
君塚はソファに座ると、さっぱりした雰囲気でそう言った。
とりあえず良太も工藤に約束を反故にされた君塚を放っておくわけにもいかず向かいに腰を下ろした。
「いや、こちらこそ工藤が申し訳ありません」
「あ、いえいえ、私がご相談に乗っていただきたくて無理にお願いしただけなので」
そう言いつつも君塚は、はあ、と一つ大きなため息を吐く。
だが、鈴木さんが紅茶とロールケーキを出すと、君塚は「わあ、これ、超並ばないと買えないっていうケーキですよね?」とぱあっと笑顔になった。
「そうなんです。この評判のケーキのために今朝並んでくれた社員がいて」
森村はケーキをゲットした後、鈴木さんの命によりまたお遣いに出ていた。
「このケーキを食べられただけでも、こちらに伺った甲斐がありました」
どちらかと言うと君塚は可愛い系だが、良太に女性の年齢は皆目わからない。
「いえね、予算が足りなくなっちゃってこないだミーティングしたんですけど、上司が少々上乗せしただけで、それ以上出せないとか言うし、これからも撮影あるのに。ほんとに使えない上司を持つとやってられないっていうか」
ペロリとロールケーキを平らげて紅茶を二口ほど飲むと、君塚は堰を切ったように話し出した。
「こっちは右往左往状態なのに工藤さんってば泰然自若ってあの人のことを言うのよね。昔っから上司だろうがスポンサーのおえらいさんだろうが鼻もひっかけないっていうか」
それを聞くと、昔の工藤を知ってるんだ、この人、とあらためて良太は君塚を見た。
そうか、MBCのプロデューサーか。
「君塚さんはMBC時代の工藤をご存じなんですか?」
ついストレートに聞いてしまってから、良太はちょっと勇み足だと自分を叱咤する。
「ええ、私が入社してから一、二年くらいで工藤さん辞めちゃったから、今回仕事ご一緒できて嬉しくって」
君塚はそう言って笑う。
喜怒哀楽がストレートな彼女は裏表がなさそうだ。
一緒に仕事か。
ちぇ、俺だってたまには工藤と一緒に仕事したいさ。
どっこい万年人手不足のこの会社じゃ、それぞれが手一杯で一緒に仕事どころの騒ぎじゃないんだからな。
良太は心の中で君塚に反論してみる。
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