夢ばかりなる6

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「そんなもん決まってるだろ? お前が入らなけりゃ話は始まらないってこと。お前のために作るチームなんだからな」
 言うなり沢村は良太の肩を引き寄せる。
「な…に言ってんだよ!」
 へ……と再度固まる肇の横で、「やっぱりそおなんだ?」とすっかり出来上がったかおりがけらけら笑っている。
「お前、いくらなんでも冗談でそんなこと………」
 その時、良太の上着のポケットで携帯が鳴った。
 ベートーベンの運命、すなわちボスからだ。
「わりぃ、ちょっと……」
 これ幸いと良太は携帯をタップした。
「はい、明日、十一時ですね、はい、わかりました」
 翌日羽田まで来てくれという札幌にいる工藤のお達しである。
 久々のお迎え命令だ。
「フン、中年のオッサンより俺のがずっといいのにな」
 ぼそっと沢村が囁いた。
 途端じわじわ顔を熱くした良太は、「うるさいな」と沢村の腕を小突く。
 支払いをもってくれた沢村とは店の前で別れ、沢村につき合ってさすがにつぶれたかおりをタクシーで先に部屋まで送っていくと、良太と肇はタクシーに戻った。
「お前も一緒に部屋に行けばよかったじゃないか」
 少しの沈黙のあと、おもむろに肇が口を開いた。
「へ?」
 今度は肇に予想外の言葉を言われて良太は面食らう。
「だいたい、前に三人で飲んだ時、せっかく俺が気きかしてかおりを置いて帰ったのに、なあんもなかったって?」
「おい―――」
 まさかそんなこととは良太は思っていなかった。
 いつぞや三人で飲んで良太の部屋に来た時の話だ。
 へべれけに酔っ払っていた良太は、部屋にかおりがいるのに驚いたことがあった。
「このままだと、沢村がかおりにちょっかいだしかねないぞ? ラインなんか交換したりして。沢村は悪い奴じゃないが、かおりが泣かされるのは目に見えてる」
 肇が妙にむっつりしていたのはそんなことを考えていたからか。
 良太は肇を振り返った。
「―――肇、気をまわさせて悪いが、俺とかおりはどうにもならないよ」
「何でだ? かおりはまだお前のことが好きなんだぞ?!」
 肇は語気を強める。
「いや、そういう感じでもないみたいだけど。俺、―――好きなやついるし……………」
「つき合ってるのか? じゃあ紹介しろよ」
「いや、それは………」
 ちょっと紹介しづらい相手だ。
「紹介できないような相手なのか? まさかタレントとか女優とか……」
「んなんじゃないって、でもな……」
「よもや不倫とかじゃねーだろーな? お前、大学の時、エースとか言われていい気になって、女に遊ばれてたみたいだが、やめとけよ、お前にはそんなの似合わねぇ」
「そんなんじゃ、ないって。ただ、ちょっと……いつか、言うよ」
 苦笑いを返して、良太は口ごもる。
「何をもったいぶってるんだ? 実は沢村とできてます、なんてんじゃないだろーが」
 いやあたらずとも遠からずなんだけど、と良太は心の中で呟く。
 やがて、車は乃木坂の青山プロダクション前で停まった。
「冗談はさておき、かおりのこと考えてやれよ、少しは。ああみえて、根はもろいんだぞ」
 車を降りようとして、良太ははたと肇の顔を見つめる。
「肇、お前、もしかしてかおりのこと………」
「…何、言ってるんだ、とにかく、ちゃんと考えろ」
 肇が乗った車を見送りながら、良太はうろたえた肇の顔を初めて見た気がした。
 昔から熱くなった良太と沢村を止める役割に徹していたような肇だが、冷静なだけに怒ると怖い。
 野球部の主将を務め、人望も厚かったが、そういえば浮いた噂一つなかった。
 硬派なんだと思っていた。
「肇のやつ、ひょっとして高校の時からずっと………」
 そんな肇に、かおりに告白されてつきあうことになったことから、あれこれ相談を持ちかけていたのか、俺………。
 今もまだ結婚しないどころか、彼女も作ろうとしないのは、かおりがいるから?
 かおりもまた、肇に例の会社の上司との不倫を相談したりしていたみたいだし、高校を卒業してからも二人はそれなりに交流が合ったらしい。
 だったら俺たち、かおりと俺、ほんとバカじゃん………
 何とかしてやらないとな、肇のこと。
 良太はしばらく突っ立ったまま、夜空を見上げた。

 


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