夢見月18

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「アスカさんならそんなもん跳ね返すわよ、絶対!」
 直子のように頼もしいことを考えてくれるファンもいるに違いないが、何にせよ、少しでも早くデマだと実証しないことには前に進めない。
 良太は直子の電話を切るとすぐ加藤に連絡を入れた。
「ああ、今調べてるとこです。千雪から連絡もらったから」
 良太が連絡をいれるまでもなく、千雪は先へ先へと動いてくれているようだ。
 気になっているのはやはり東洋商事ニューヨーク支社の広報プロジェクトだ。
 ニューヨーク支社の始動は九月になるが、四月から良太はニューヨークのネットプライム本社に研修にいくことになっているのだが、それを見越したかのように、東洋商事の広報プロジェクトでリーダーを務めることになっている。
 そのプロジェクトに起用が決まったのが、既に渡米してフロリダのキャンプに合流している沢村智弘とアスカだ。
 沢村は今年からMBLボストンレッドイーグルスの一員となり、ニューヨークの自宅を拠点にしているのだが、デザイナーの佐々木が先に東洋商事のプロジェクトに加わることが決まり、沢村が数年前からニューヨーク在住のウイルソンと共同経営しているS&Wコーポレーションが所有するビルにオフィス佐々木の事務所と佐々木とアシスタントの直子の居住スペースは確保されていた。
 直子と佐々木は良太と前後してニューヨークに発つ予定で、先ほど電話をくれた時も、仕事と来月からのニューヨーク移住の準備などで、直子は大忙しのはずだった。
 最初にニューヨーク研修が決まっていたのは良太だが、沢村は前々からレッドイーグルスのブルックス監督に再三来てくれと言われていたのを、恋人である佐々木と離れたくないばかりに佐々木にも話せずにいたところを、ちょうど良太が千雪にその話をした直後くらいに、何故か東洋商事のプロジェクトの件で佐々木も渡米することになったのだ。
 佐々木一人でニューヨークなんかで仕事ができるわけがないと、佐々木の古巣ジャストエージェンシー社長春日が直子も一緒に行くように促し、さらにプロジェクトはプラグインにも声がかかり、藤堂も渡米が決まり、加えて工藤が良太一人では心配だというので、元々ニューヨークの住人である森村にも二週間ほど良太の付き添いということで四月から青山プロダクションの周囲で一斉に何人かがニューヨークへ向かうことになったのだ。
 どこかにシナリオでもあるのではと良太が勘繰りたくなるような話だが、一応良太のネットプライム研修は三か月だし、良太と藤堂は東洋商事への出張はちょくちょくありそうだが、移住するわけではない。
 そんな状況下、良太としては研修前に終えたい仕事は山積みというところへもってきて、降ってわいたアスカの一件は軽くあしらえるようなものではなかった。
 工藤がスケジュールを大幅に修正して動いているほどだ。
 良太は次の仕事に入る前に、何とか加藤からの連絡が欲しかった。
 動画を調べてすぐに連絡すると言っていたが、と携帯を睨んでいるうちに鈴木さんが戻ってきた。
「お帰りなさい。記者連中につかまりませんでした?」
 良太は聞いてみたが「会社の前にいた人? 二人くらいに知っていることを何かとか言われたけど、私は存じ上げないものねえ」と鈴木さんはちょっと小首を傾げ、弁当の袋を窓際の大テーブルに置いてキッチンに向かった。

 


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