「ねえねえ、あの事件の話、私、聞きたかったんだよね、どうやって解決したの? マスコミもまるで名探偵が犯人みたいな扱いだし、事情聴取までされたんでしょ?」
入れ替わるように、今度は牧村が近くの椅子を引き寄せて千雪の横へやってきた。
「あれは別に俺が解決したとかいうわけではなく、警察がよう調べもせんとアホやっただけです」
また蒸し返されるのもいやな話だ。
「ああ、あの時は、災難だったよね、小林くん。厳めしい刑事に連れて行かれて、どうしようかと思ったよ」
だが宮島教授まで口を挟んでくる。
「そもそも名探偵に似せた格好してたんだよね? 犯人が。しかも小説のファンだったからとかって。二件目の事件も名探偵によく似た格好してたっていうし」
牧村が頷きながら周りに同意を求める。
「そうそう、俺、思わず、名探偵、犯人になっちゃったんか、とかって、思ったもん」
それが法医研の助教の言いぐさか、と千雪は心の中で突っ込む。
「二件目は一件目の便乗犯で、だいたい、人相風体が似ているからって、俺のとこ来ること自体、初動捜査の時点で間違うとるし。ちょっと調べれば、着てるものかて違いはわかったはずやのに、メガネとジャージなんてものだけに踊らされるやなんて、日本の警察トップが呆れますわ」
おっとまた、言い過ぎないようにここいらで止めておこうと、千雪は自制する。
「それで結局どうなったの?」
まだ牧村の好奇心は満たされないらしい。
「小林くんのアリバイ、ちゃんと証人がいたんだよね」
隣から宮島教授が助け船を出した。
「そっか、なるほど、それで名探偵は解放されて、事件を解決したと」
「いや、俺は何もしてませんよ。ちゃんと警察が調べたからでしょう。もともと身内には目を向けないってのが警察ですからね」
「こりゃまた手厳しいね」
宮島が笑った。
「そういえば、君のアリバイを証明した工藤くん、喜んでたよ。君が小説の映画化、OKしてくれたって」
千雪には、できればこの場では引っ張り出してほしくない話題だった。
「えええっ?! 小説、映画になるの? いつ? すごーい!」
案の定、牧村のお蔭で、またひとしきり千雪はみんなからつつかれた。
その話題が一段落する頃、宮島教授がそろそろ失礼するよ、と立ち上がった。
それを合図のように、じゃあ、河岸を変えようというので、一旦お開きとなった。
当然、千雪はこのままとっとと帰るつもりだった。
「ここは俺のおごりってことで」
速水の一声に、歓声があがる。
「太っ腹!」
「速水さん、大好き!」
「次、どこにします?」
口々に言いたいことを言いながら店を出る。
「どうぞ、教授」
エレベーターは二基あったがどちらも狭く、ドアが開くと、速水は宮島教授や伊藤準教授、関谷教授を先に乗せた。
「まだ乗れますね、じゃあ、私も乗ります。小林さんもどうぞ」
文子に促されて、これ幸いと千雪も乗り込んだ。
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