二件目に入ったパブでは、京助は誰が何を言っていたかも覚えていないくらいイラつきながらやたら酒を煽っていた。
今度こそ千雪が離れていってしまうのではないかという不安につき動かされ、店を出るなり速水の誘いを突っぱねてここにきた。
京助にしてみれば、実際、昔の女とくっつけようなんぞという周りの目論見など、腹立たしいばかりなのだ。
できるものなら千雪は俺のものだと公言してしまいたいところだが、そんなことをしようものなら、逆に千雪は怒って逃げ出すに違いない。
千雪の中で自分の存在位置はあの京都の男の足元にも及ばないのはわかっている。
「千雪……千雪……」
もどかしいジレンマを抱えた焦燥感に煽られ、うわ言のように繰り返しながら、京助は情念の渦の中に千雪を引きずり込んだ。
「小林千雪? 何だ、名探偵? 探偵小説家の先生んとこか」
京助が部屋に転がり込んだすぐあと、階段を上ってきた男の影があった。
二件目の店を出てから、昔よく通ったバーに行かないかという速水の誘いを断って、文子を振り返りもせずさっさとタクシーを拾った京助を追って、速水はここまでやってきたのだ。
朝、京助のベッドにいた美少年のところへ行くに違いないと直感したからだ。
まさか、本気であんな坊やにいれこんでるんじゃないだろうな?
親友を心配している、それはあった。
だが、その親友を誑かしているらしいあの類まれな美貌の主のきつい眼差しに、もう一度会ってみたいという興味がそれを凌駕していることを、自分でもわかっていた。
その美しさも無論であるが、確かにそうそうお目にかかれない存在感があった。
ところが、京助が辿り着いたのは、速水が探偵小説家と小ばかにした小林千雪のアパートだった。
ドアにある小林と書かれたプレートを読み、期待が外れた速水は、踵を返してまた階段を降りた。
あの先生はあの先生で、結構面白いが。
とはいえ、自分が振られた桐島恵美を振った男という事実が、速水の中では許せないものがあった。
日本にいるうちに、今度はあの名探偵をぎゃふんと言わせるネタを探し出してやろうじゃないか。
知らずほくそ笑みながら、速水は大通りに出るとタクシーを拾った。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
