よりによって、顔を見たくもない相手とどうしてこんなところで出くわしてしまうのか。
「ええ、一応、雑誌で連載なんかやってるんで、色々忙しいんです」
振り返ると速水とその後ろには文子が立っていた。
「まあ、連載? 何ていう雑誌ですか?」
にこやかに尋ねられて、千雪は一瞬言葉を捜す。
「軽いミステリー雑誌です。失礼します」
「そりゃ、楽しみだな~、名探偵」
眼鏡越しにジロリと速水を睨みつけてその横を通り過ぎるが、あまり効果はなかったようだ。
それにしても、あの才色兼備な文子と京助をくっつけようという速水の判断は正しいのではないか、と千雪はぼんやり考える。
京助と言えば、今朝、狭いベッドの上で圧し掛かるようにして眠っていたので、千雪はその下から這い出し、そのまま蹴り落としてやったのを思い出して、また腹が立つ。
夕べは京助がワインや材料を持参して、夕食に作ってくれたビーフシチュウもワインも美味かったのはよかったのだが、結局ベッドに引っ張られ、お陰で身体はガタガタ、一限目からあった講義にもようやく間に合った。
でも、シャワーを浴びて出てくると、いつものように京助がスクランブルエッグとトマトのオープンサンドや、コーヒーを用意してくれていて。
きっと俺は、そんな風にこの先京助がかまってくれなくなることが嫌で、文子や京助の女とかいわれる存在がうっとおしい思うだけなんや。
文子を見るたびに、モヤモヤする自分の気持ちをあらためて考えてみる。
これは俺の我侭や。
京助とよう噂されてた華道家元の娘とか、見るからに遊びや思うけど、文子さんて、ほんまに非の打ち所がないやん。
第一、京助が何で俺にそこまで執着するんか、ちっともわからん。
俺なんかコスプレ脱いだら、我侭やしきついし、できるこというたら、お前のご学友の言うように探偵小説書くことくらいやで。
京都でも、京都から戻ってからも、京助のヤツ前よりべたべたしてきよって。
俺も京助のこと好きやし、京助も俺のこと好きやいうんはわかるけど、それってやっぱ馴れ合いの延長、友達の延長やろ?
京都で、研二がほんまに俺のところにはもう戻ってけえへんて思たら、ひとりでおれんようになって、ちょうど京助がいてくれたから甘えてしもたけど………、なあ………
ああ、我ながら、そないなこと考えとる自分がメンドイ!
昼休みにはひとりカフェテリアの端の方で、惣菜パンで昼を済ませた千雪は、グタグタと考えながらコーヒーを飲んでいた。
「それより、桜木ちゆき、て気になるし、小田和義、て弁護士先生、工藤も名前を出してたし、今も交流があるんやと………あった。半蔵門か。ちょっとあたってみるかな……」
携帯で検索をかけたら、小田和義弁護士事務所というのがすぐヒットした。
午後は講義が一つだけなので、早速アポを取ろうとしたのだが。
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