「あ、先輩! こんなとこにいた!」
お前は猛禽類か。
千雪は眼鏡の奥からよく見知った男を睨み付けた。
今日は天気もいいので南側のテラスへ続く扉が開かれ、オープンカフェになっていた。
できればこのうるさい後輩とは顔を合わせたくないし、ちょうど隅の木陰のテーブルが空いていたので、隠れるようにこんな端の方までやってきたのに。
「おや、名探偵、なるほど、ここは静かで原稿を書くにはよさそうだ」
さらにウザい連中まで佐久間の後ろからやってきた。
勘弁してくれ。
思い切り眉を顰めて千雪が顔を上げると、速水の横で文子と何やら話していた京助と目があった。
と、京助はたったか千雪の横に座る。
「いいか、別に彼女とはただ心理学の話をしていただけだからな」
座りしな、言い訳のように千雪の耳元でこそっと囁く。
やから、そんなことイチイチ弁解せんかてええ!
速水は文子の椅子を引いてやり、佐久間はトレーに載せていた四人分のコーヒーをそれぞれの前に置くと、自分も座る。
「ひょっとしてお邪魔でしたかな? 名探偵」
「そうですね」
名探偵、などといかにもバカにしたように付け加える速水の挑発には極力乗らないようにとは思うものの、つい考えるより言葉が先に出てしまう。
「ごめんなさい、お邪魔してしまって」
申し訳なさそうに言う文子に対しても、あえて取り繕ったりおもねるような言葉は出てこない。
「すみませんね、先輩、ウソつけへんタイプやから」
「結構じゃないか。日本人の悪い癖は妙なおためごかしで、なかなか本音を言わないとこだ。その点、名探偵ははっきりしていて、わかりやすい」
佐久間が千雪を代弁すると、速水は皮肉っぽい言いまわしでジロジロと千雪を見つめる。
「そういえば、君の小説が映画化されるってことだが、佐久間くんの話だと、何やらうさんくさいプロダクションらしいじゃないか?」
今度は何やね?
千雪は怪訝な顔で速水を見た。
「聞けばその社長の工藤とやらはヤクザの組長の甥とかで、業界じゃ評判の男らしいじゃないか。そんないい加減な男の口車に乗って、映画化なんて喜んでると、後で泣きを見ることになるぞ?」
この男、どういうつもりや?
千雪は怒りで熱くなるより段々冷えていく。
探偵小説が映画化されることが面白ろないから俺のこと荒捜しして、今度は工藤のことをこき下ろす、いうわけか?
「聞けば、に、らしい、ですか? 速水さん、工藤さんのことどのくらい知ってはります?」
「ああ?」
警視庁で事情聴取を受けたとき、工藤をヤクザ呼ばわりした所轄の刑事のことを千雪は思い出していた。
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