頭から工藤をヤクザと見下しているその正義感面にはかなりムカついたが、千雪のことを見下したいが故に工藤のことを持ち出している速水に対して、反吐が出る思いがして、千雪は立ち上がる。
「根拠のない噂話なんかに踊らされて、仮にも心理学者ともあろう人が、そう知らん他人を貶めるような不用意な発言はされん方がええ思いますけど?」
口調は穏やかだったが、これにはさすがに速水も気色ばむ。
「せっかくの先輩の忠告を無視するわけか? 京助もお前さんは騙されてるんだとか言ってるぜ?」
「あんな、何考えてるかわからねぇヤツだぞ? お前、わかってんのか?」
京助はこの際速水に便乗しても、千雪に工藤から手を引かせたいのだ。
「京助こそ、わかってないやろ? これは俺と工藤さんの問題や。先輩方には関係あれへん」
「千雪、てめぇ、まさかあのやろうに……」
「京助!」
カッカきている京助が今にも下手なことを口走りそうだと、千雪は声を上げた。
京助は千雪を睨みつける。
「先輩、俺も心配ですわ。ほんまに話進めるんでっか? 彼女の話、かなり信憑性があるみたいでっせ?」
工藤が悪徳業者だとか、ヤクザだとかは、そもそもが出版社に勤める彼女からの話をそのまま鵜呑みにしてくれた佐久間こそが発端だった。
京助の頭ごなしなのは今に始まったことではないし、京助の場合はただ工藤に敵対心を持っているだけだろうとはわかっているのだが。
「余計なお世話や。俺の仕事やから、俺が決める」
「先輩ぃ~」
佐久間が情けない声を上げて、大仰に溜息をつく。
「あのぉ、お取り込み中のところ大変申し訳ないのだが……………小林くん………」
声の方を見ると、そこにはまた新たな厄介ごとが立っていた。
「渋谷さん」
スーツをきちんと着込んでいるが、しっかりした体格の良さは見て取れる。
ただし、顔の造りがいかにも優しく甘めなため、捜査一課の先輩からは、なめられるなよ、としょっちゅう叱咤されている。
「事情聴取なら、次の講義の後にしてもらえますか?」
ストレートな反応に、渋谷は、すまない、と思い切り頭を下げる。
「相変わらず容赦ない皮肉、甘んじて受けるよ。受けるが、十分だけ、いや、五分でいい、話を聞いてもらえないかな?」
いい加減、京助や速水から逃げ出したかった千雪にとっては案外、渡りに船な渋谷の登場だったが、いかにも仕方なさそうに渋谷と一緒にその場を離れた。
「誰だ? あいつ」
京助らにちょっと会釈をして千雪を連れて行った渋谷を指して、速水が尋ねた。
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