真夜中の恋人23

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 さすがに切れ者の弁護士というだけあって、その表情からは何も窺い知れない。
「刑法と処罰について、考えているところなのですが、弁護士として実際の事件を扱っておられる先生に、差しさわりのない程度でお話を聞かせていただけたらと思いまして」
 もちろん、自分が携わっている課題についてもこの際話が聞ければというのもあった。
 近年ネットやマスコミといった情報伝達の影響力が大きく、加害者のみならず被害者やその家族までもが誹謗中傷のターゲットにされたり、本人の素性がネットに晒されたりすることを危惧しているといったことから、罪を犯したその時の加害者の心理状態や環境といったものを刑罰を決定する上でどのように扱うかといったことまで、小田は終始穏やかに話してくれた。
「捜査一課の連中が結構君にアドバイスをもらっているようなことを聞いているが、お陰で真犯人が見つかったようなこともあるようじゃないかね?」
 話の続きのようにさり気なく問われて、千雪は少し戸惑った。
「いえ……僕は捜査の専門家ではありませんが、たまたま知り合った刑事と話すことがあって、着眼点を変えることができなくなっているから前に進めないのではないかと……その程度のことで、実際は警察がちゃんと仕事をしたからというだけなので」
 なるほど、と小田は頷いた。
「しかしこないだは危うく容疑者にされるところだったみたいじゃないか?」
「ああ………」
 千雪は苦笑いした。
「でも容疑者にもされてみるものだと………こうやって思い込みで冤罪が起こるんだと実感しました。いや、犯人と決め付けられて事情聴取されたことには、しっかり辛らつなことを言い返してしまいましたけど」
 容疑者と言えば、昼にやってきた渋谷刑事の話も実は気になっていた。
 一ヵ月ほど前、足の不自由な老女が殺害され、数日後、近所に住む高校時代から補導暦があるという老女の孫が逮捕され、アリバイもなく、被疑者のものである血まみれのジャケットと包丁が見つかっており、目撃情報もあることから起訴されることになったのだが、この男が一貫して無罪を主張しているという。
 被疑者は検察へ送られたが、凶器と断定された包丁の指紋は拭き取られているし、渋谷は無罪を主張し続ける男の言い分を満更否定できないと言って千雪のところにやってきたのだ。
 だったら、男が無罪であると仮定して始めから事件を組み立ててみて、出てきた矛盾点を調べなおしてみたらどうかと千雪は進言したのだが、もしこの男が無実にもかかわらず、渋谷のように考える者が捜査側にいなかったとしたら、また冤罪を作ってしまうことになるのだ。
 いや、もし自分もアリバイを証言してくれる人間がいなかったらと思うと、やはりぞっとする。
「そうそう、君のアリバイを立証したのが工藤だって?」
 小田から工藤の話題を持ち出されて、千雪はラッキーと思う。
「工藤さんから聞かはったんですか?」
 千雪は小田の顔をじっと見た。
 


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