真夜中の恋人24

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「ああ、ちょっと話をした時にね。それに君の小説を映画化するという話じゃないか、工藤にしてみれば結構大きな仕事になるようだし、私も影ながら応援くらいはさせてもらうよ」
 ワハハと豪快に笑う小田からは誠実な人柄が窺えた。
「工藤さんとは今も親しくされてはるんですね」
「まあね、俺は工藤の顧問弁護士ってことになってるし、俺たち工藤と俺と検事の荒木ってやつと三人、同期でね。三者三様の道を歩いているが、年に一度は飲んで互いの憂さを晴らしてる」
「そうなんですか」
 小田の話を工藤のことを頭からヤクザ呼ばわりした速水に聞かせてやりたくなった。
「宮島教授から三人は在学当時から三羽烏と言われていたとお聞きしました」
 すると初めて小田がわずかに口元を引き締めた。
「三羽烏ね…………古い話だ。つかぬことを聞くが、小説の映画化の話は工藤の方から?」
「はい。宮島教授を通して工藤さんを紹介していただきました」
「そうか」
 小田は言い、にっこり笑った。
「あの」
「何だね?」
「宮島教授からは、小田さんたちは実は三羽烏じゃなかったというようにお聞きしましたけど」
 一瞬間があった。
「宮島教授が?」
「はい。実は三羽烏ではなく、四羽だったんですか?」
 千雪は思い切って尋ねた。
 小田はうーん、と顎に手を当てて、視線を宙に向けた。
「まあ、そうだね。三年までは……もう一人、将来こいつは絶対切れ者の弁護士になると思っていたやつがいてね。残念ながら亡くなってしまったんだ」
 やはり、と、千雪は自分の想像が当たってしまったことに、密かにため息を吐く。
「ひょっとして、桜木ちゆきさん、ですか?」
 小田はすると少し険しい表情を千雪に向けた。
「それを聞いて、君はどうしたいんだ?」
「どうしたいというわけではありません。宮島教授にはよくしていただいてますが、初めてお会いした時、僕の名前を聞き返されたので。男なので似合わないと思われるらしくよくあることなんですが」
 小田はじっと千雪を見つめていたが徐に口を開いた。
「さっきの安井くん、君の小説のファンでね。そう、こんな素適な名前なのに、奇抜な風貌らしいって面白がっていたよ。私はまだ生憎読んだことはないが……。工藤は仕事のできない俳優なんかは容赦なく切り捨てるという残忍なことを平気でするやつでね。業界じゃ、鬼の工藤とか異名をもらっているらしいが、仕事に対しては真摯なやつだから、気に入らない小説を映画化するなんてことはないよ」
「そう…ですか。宮島教授も工藤さんのことを気にかけておられたみたいです」
「桜木ちゆきは……」
 小田はそれだけ言うと立ち上がって、窓際に向かい千雪に背を向けた。
「俺たちの仲間で、工藤の恋人だった。宮島教授は二人のことを微笑ましく見ていたよ。だが二人が背負っているそれぞれの背景が厄介でね。工藤は伯父が広域暴力団の組長で、桜木は政治家の娘だった。二人が引き裂かれたことが原因で桜木は自殺した。表向きは」
「自殺? ですか? 何で、自殺やなんて。駆け落ちするとか、ほかにも方法があったはずでしょ」
 千雪は思わず声高になった。


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