Act 5
六本木の大通りから少し入ったところにあるバー「サンクチュアリ」は、富裕層が利用する高級会員制クラブの系列で、VIPルームもあるシックな店だが、京助や速水にとっては高校時代からのたまり場で、加えて大抵何人もの遊び仲間が屯していた。
久々にドアをくぐると、久しぶり、と京助に声をかけてくる者もいる。
もともと金のある知りあいに連れられてきた二人だが、当時から誰も高校生とは思わなかったようだ。
ちょうど京助がK大学進学で東京を離れたのをいいことに、それまで住んでいた部屋を解約した速水は留学する九月までを京助の部屋に居候して、この店にも足しげく通い、大いに羽を伸ばしていた。
「あら、京助じゃない、久しぶりね。克也も帰ってたの?」
早速声をかけてきたのは、たまに京助と噂に上ってマスコミに書かれたことのある華道家元の娘、五所乃尾理香だ。
華やかな美貌とはっきりしたきつい性格で男たちを手のひらで操るくらい朝飯前の女王様ぶりはよく知られている。
京助も当時つき合っていた小山美沙や、二年後T大に入り直して少しつき合った文子を連れてきたこともある。
だが、結局美沙には振られ、文子とつき合ったものの美沙のことがまだ忘れられずダメになり、それから自棄になって遊びまくっていた頃、理香とも寝たことがあるが、彼女とは遊びでしかない。
そういう京助を知っている者がいるだろうこの店に、千雪を連れてくるつもりはなかった。
今夜はフランス人らしい男が理香にべったりくっついていた。
「あちこちで聞いたわよ、噂の真夜中の恋人って、今日は一緒じゃないの? 京助」
「何だそれは」
途端に不機嫌になる。
「やあね、隠さなくてもいいじゃない。すごい美人なんですって?」
京助はケラケラ笑う理香を睨みつける。
「いたとしてもお前らに紹介するような義理はない」
「何よそれ? 美沙さんに振られたのが私たちのせいとかまだ根に持ってるの? 別にいじめたりしなかったわよ?」
苛めたわけではないだろう。
だが、派手で金を空気のように使って遊びまくる理香のような連中に囲まれ、美沙は違和感を感じたようだ。
前の男とよりを戻したから別れたいという理由だったが、住む世界が違うとそう言われたことの方が大きな要因だったのではないかと、自分がもっと気を使っていればと後で悔やんだが既に遅かった。
文子は住む世界といえば、理香とさして変わらなかったかもしれないが、こんなところで遊びまくる連中とはまた人種が違ったし、多少のことでぶれるような女ではなかったが、当時京助の方が美沙を忘れきれず、深い付き合いにはならなかった。
いずれにせよ今となっては既に昔の話だ。
「それでいったい何の用だ?」
理香のお蔭で余計なことを思い出し、イライラしながら京助はグラスを空けた。
「だからその真夜中の恋人のことだ」
理香が離れていったのを見計らって、速水は声を落とした。
「まさか、本気じゃあるまい? あんな坊やに」
「お前に関係ないことだ」
「俺は心配なんだよ。お前が、言われているほど遊び人じゃないし、結構一途で不器用なやつだってことはよく知ってるからな」
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