一呼吸おいて、速水は続けた。
「いくらでも女がより取り見取りだろう? ゲイってわけじゃないんだ。何も坊やなんか選ばなくてもいいだろ? いったいどこで知り合った? ニューヨークあたりでもよくいるが、あの手合いは絶対援助目的だぜ? お前の素性知ってるんだろ?」
何も答えない京助に、速水は畳みかけるように言った。
「いや、ここのところ、お前、すっかりマスコミに好かれているらしいからな。わかってて近づいてきたに違いない。モデルか何かか? それともただの学生とか? まあ、ちょっとないくらいの美形だからな。女もだが男もほっとかなかっただろ、きっと。ありゃ、結構したたかなのかもしれないぜ?」
その時、京助は不意に研二を思い出した。
いや、確かに男でもほっとかなかったかもしれない。ひょっとしてもしあの弁慶がいなければ………。
じゃあ、何で手放したんだよ!
いや、もう遅いぜ、研二、遅いんだよ。
「お前、まさか、高校生に手出したんじゃないだろうな?」
京助はフンと鼻で笑う。
「バカ、あり得ねぇよ。お前の気持ちは有難迷惑この上ない。全くわざわざお前の心配するようなことはない。克也、俺は決めたんだ。あいつと生きていく」
「おい、京助!」
さすがにここまで断言されると、速水は驚きを隠せない。
「俺が男に走ったことが気に入らないってのなら、いつでも絶交してくれてかまわねぇぜ? 俺は」
京助はそう言い切ると、苦々しい顔の速水を残して店を出た。
速水が帰るまでは会わない、部屋にも来るな。
数日前、昼に速水とひと悶着かました夜、千雪からそんなラインが届いたきり、携帯も切っている。
昼もカフェや学食にも現れず、連絡も取れないのが歯がゆいのだが、無理に押しかけたりしたら、千雪のことだ、それこそ本当に絶交なんてことになりかねない。
幸か不幸かやりかけて放ってあった論文は妙にはかどったものの、千雪欠乏症はそろそろ限界にきている。
バーを出てタクシーを拾うと、京助は千雪のアパートの方へ向かった。
だが部屋に行くわけにもいかず、近くにある行きつけの一杯飲み屋へフラリと入る。
「おや、京助さん、今日は相棒は一緒じゃないの?」
カウンターといくつかある狭いテーブル席は学生や馴染み客でほぼ満席である。
この「寿々屋」は夫婦でやっているのだが、元は向島の芸者だったというちょっと色っぽくてきっぷのいい女将の鈴子が人気で、板前の夫はおしゃべりなおかみとは打って変わって、ぶっきらぼうで恐持てである。
「やっぱこの店、ほっとするよ」
大根の煮物をつつきながら徳利を傾ける京助は、派手な遊び人たちが屯すバーとこの店を比べてみて本心からそんな気がした。
「こんなうるさい店が? うれしいねぇ、京助さんみたいなイケメンがそんなこと言ってくれるとあたしゃもう思い残すことはないよ」
もう思い残すことはない、は女将の十八番だ。
気に入っているのは女将のきっぷのよさだけではない、上辺で人を判断しないところだ。
浮浪者並みの常連客にも金のなさそうな学生にも、女将の態度は変わることはない。
「今度は相棒も連れておいでよ」
女将の明るい声に送られて店を出た。
ポツリポツリと雨がこぼれてきた。
京助は一つ大きく溜息をつき、雨の中をタクシーを拾うと千雪の部屋へ足を向けたいのを抑え、仕方なく自分の部屋へと向かった。
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