真夜中の恋人30

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「あとは、お任せしますので、よろしくお願いします」
 千雪はヘルメットを手に立ち上がった。
「あら、千雪さん、バイクなの? じゃあ、工藤さん、車変えた?」
 万里子が小首を傾げて工藤を見た。
「まだ動くものを変える必要はないだろ」
「ふーん、じゃあ、志村さんの? ポルシェ」
 志村は、ああ、そういえば、と頷く。
「あれ、最新のヤツ? そんなものを買えるような身分じゃないですよ」
 何となく気にかかるものがあったが、千雪はオフィスを出て階段を降りる。
 ヘルメットを被ろうとしたその時、いきなり腕を掴まれた。
 えっ、と思う間もなく、腕を取られたまま歩き出す。
「京助! やっぱりお前か! 会わんて言うたやろ!」
「たまたま、通りかかったんだ。メシ食うぞ、まだだろ?」
「何がたまたまや! 駐車場に置いてる車、お前のやろ!」
 とはいえ、京助と会わなかった数日、何やら物足りなさを感じていた千雪は、それ以上文句を言うのをやめた。
 目についたカフェレストランに京助は千雪を連れて入っていく。
「他に欲しいものあるか?」
 パパパっとメニューから二人分のコース料理を選んでから、千雪に尋ねた。
「ない」
 京助が勝手にオーダーしたのだが、千雪の好き嫌いは心得ているので、何も文句はない。
 会わない来るなと言っていた手前、千雪はムスッとした顔で腕組みをして、目の前に料理が並べられるのを眺めている。
「で? 今夜は何だ? 工藤のやつ」
「キャスティングとかスポンサーとかの確認や」
「へえ、誰が出るんだ? 監督は?」
 京助は牛フィレのステーキを食べ、千雪の前には赤ワイン煮込みが置かれている。
「志村嘉人とか高野淳子とか、小野万里子とか」
「小野万里子? 案外いいキャストじゃねぇか」
「小野万里子には紹介してもろた。工藤さんとこの所属やて」
「へえ」
「監督や脚本は若手の有望核の人を使うらしい」
 二人とも車やバイクなのでノンアルコールワインだ。
「お前の要望はちゃんと通したのか?」
「俺は別に、何もないし、わかれへんから、工藤さんに任せてる」
「作者ってのはもっと主張するもんだろ?」
「俺の手を離れたら別もんやし」
 あっさりしたものだ。
 京助はそれが千雪らしいと思う。
 案外ストーカーしていたことにも怒っていないようだ。
 フン、今さらだと思っているのかもしれないが。
 このまま部屋に連れて行くぞ。
 京助がそんなことをもくろみながら、デザートのシャーベットに少し手をつけた時だ。
 ポケットでマナーモードの携帯が唸った。
「携帯、鳴ってるで」
「ほっとけ」
「教授のお呼び出しとちゃうか?」
 ちっと舌打ちして京助は携帯をポケットから取り出した。


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