真夜中の恋人32

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    Act 6
 
 
 
 明け方ようやく部屋に戻り、ちょっと仮眠した程度でシャワーを浴びて着替え、研究室に戻ってきた京助は、さすがに疲労困憊状態だった。
 自販機で買ってきた栄養ドリンクを一気飲みして自分のデスクに足をかけ、椅子にもたれて腕組みをしたまま目を閉じていると、牧村らがやってきた。
「おはよう。夕べはゴメンね、急にお願いしちゃって」
 研究室のメンバーは二人一組でシフトを組み、司法解剖等に当たることにしている。
 昨夜は順番でいくと牧村が入ることになっていたのだが、埼玉の実家で法事があったため、一昨日から何かあったらと頼まれていたのだ。
「次はお願いしますよ。あと、昼まで寝かせて下さい」
「明け方までかかったって? いいよ、自宅戻ってても。何かあったら知らせるから」
 京助は立ち上がり、「じゃ、ベンチで寝てるんで、いつでも携帯鳴らしてください」と研究室を出た。
 外は五月晴れ、気持ちのいい朝だが、気温が割りと上がっている。
 京助はカフェテリアの近くの木陰にちょうどいいベンチを見つけ、手にしていた専門雑誌を丸めて枕にして横になった。
 授業終了のチャイム、傍を通り過ぎる足音、女子大生のクスクス笑う声などが耳に届いていたが、そのうち本気で眠ってしまったらしい。
「おい、京助」
 自分を呼ぶ声がしたが、そのまま眠っていると、今度は足を蹴られた。
「うっせぇな………」
「疲れてるんでしょ? 放っといてあげましょうよ、速水くん」
 その声は文子だろう、だが「昼だぜ、いい加減起きろよ」と速水はしつこい。
 仕方なく身体を起こして、京助は頭をガシガシと掻いた。
「ヨダレたらしてほうけた顔で、色男が台無しじゃないか」
「夕べは寝てねんだよ。何の用だ?」
「昼だっての」
「ああ? てめぇ、んなことで人を蹴り起こしやがって」
「コーヒー持って来るわね」
 文子がカフェテリアの中に戻っていった。
 ふわあと一つおおあくびをする京助に、速水はニヤリと笑う。
「用といやあ…………そうだな、一つ報告しないとな」
 速水はもったいぶって一呼吸置くと京助を見つめた。
「例の真夜中の恋人、なかなか良かったぜ?」
「……………何?」
 京助は眉を顰めて速水を見上げた。
「フン、てめぇがあんまり出し惜しみするから、夕べ後つけさせてもらったんだよ」
 速水はニヤニヤ笑いながら続けた。
「あの店で、お前が呼び出されたところで、坊やがえらく寂しそうな顔してるんで、ちょっと誘ってやったら、彼氏、ホテルの俺の部屋までホイホイついてきたぜ?」
「てめぇ、デタラメいいやがると……」
 ところが速水は顔を近づけて、声を落とした。
「透けるような肌ってのを初めて見た気がしたぜ。あの恐ろしいような色香で、ありゃ、相当、男くわえ込んでるんじゃねぇの? なかなかおさまりがいいし、可愛がってやったら、感極まった声で泣いて………」
 何が起こったのか速水が悟ったのは、自分の体がふっとんでしばしあってからだ。
「きゃあ!」
 通りかかった女子大生が盛大に叫んだ。

 


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