「どうしたの!? 京助さん! 速水くん!!」
騒ぎを聞いて、コーヒーを取りに行っていた文子が慌てて駆けつけた。
その頃、二限目の講義のあと教授に質問があって時間をくってしまった千雪は、三限目が始まる前に図書館に行くつもりもあり、カフェテリアで手早く昼を済ませようと向かっていた。
夕べは帰ってから原稿に取り掛かったのだが、速水のことがどうにも我慢ならず、イラついて全く進まなかった。
呆れるというより、そんな風にしか考えられない男が哀れにさえ思えた。
それが京助の友人というのだから、京助も気の毒な気がしないでもない。
いいや! 元はと言えば、京助が悪いんや!
あんなヤツにカギなんか渡したままにして!
あのヤロウ! 人のことスキものの淫乱男みたいに!
自分がそうやから言うて、人のことまで同じやと思うな!
にしても、工藤といい、俺そないものほしそうな顔にみえたいうんか?!
んなわけあるかっての!
くっそーーーー! そもそも京助のせいやし!
腹立つ!
朝になっても昨夜の速水のことがふっと思い出されて、イラつきは収まらなかった。
というより、考えれば考えるほど、憤りが大きくなった。
サンドイッチとコーヒーを持って、空いている席を探していると、外で人が寄ってきて騒いでいるのが見えた。
何だろうとは思ったものの、構っている暇はないとばかり、隅の席を見つけて座ったところへ、「先輩! 大変でっせ!」と、どうやったらこの大勢の学生の中から見つけ出すのか一度聞いてみたいくらいな佐久間が千雪を見つけて走り寄ってきた。
「うるさいな、俺は今忙しいんや」
「のんきにコーヒー飲んでる場合やあれへん、京助先輩と速水さんが殴りあいや! 先輩、早う!」
「はあ?」
わけがわからない千雪の腕を引っぱって、佐久間は外に連れて出て行く。
人垣ができているその中で、京助と速水が肩で息をしながら睨み合っていた。
二人とも着ている服は乱れ、速水は殴られて唇についた血を手の甲で拭っている。
「あ、小林さん! どうしましょう!」
千雪に気づいた文子が心配顔で佇んでいる。
「何やってんね? あいつら」
千雪は人垣の後ろに立って二人のようすを眺めた。
「せやから、何か、二人話してたと思たら、いきなり京助先輩が殴りかかったみたいで、どないしまひょ~」
大きな図体で、佐久間は千雪の後ろでうろうろしているばかりで何とかしようとする気はないようだ。
千雪はふーっとひとつ溜息をつくと、人垣を掻き分けてつかつかと二人の前に立った。
「ええ加減にせぇよ! ええ年して、アホちゃうか」
はっと我に返ったように、京助は千雪を見た。
「千雪、お前!」
京助は千雪の顔を見た途端、いきなり今度は千雪の両肩を掴んだ。
「お前、夕べ、こいつについて行ったのか?」
耳元で唸るように京助は尋ねた。
「はあ?」
千雪は一瞬京助が言ったことを心の中で反芻した。
そしてすぐにそれがどういうことか、どうやら速水が京助にそれらしいことを言い、頭に血がのぼった京助がカッとなって速水を殴ったのだと察した。
「どアホ!」
千雪は京助を押し戻す。
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