「うわ、もう、昼休み終わってしまうやんか!」
腕時計を見て、千雪は焦って二人に背を向けた。
「ほんまに、くだらないことで大騒ぎして、ようも恥ずかしないな?! 先輩方!」
ちょっと振り返り、そう言い放つとたったか次の講義のある教室へと足早に向かう。
やってられへん!
夕べのことと言い、千雪は怒りが収まらない。
あの速水ってヤツ、どこまで人をコケにすんのや!
京助も京助や! 俺があんな男に何でわざわざついて行かなんのや!
冗談もほどほどにせいや! 大体、何で俺がこない腹立てなあかんね!
やはり京助にかかわりあうとロクな目に合わないということだろう、とにかくとばっちりはゴメンだと、千雪は心の中で京助に対してまた悪態をついた。
講義が終わり、研究室に戻ってから、千雪はひたすらノートパソコンに向かってレポートを急がせていた。
電話が鳴ったのは六時近くになってからである。
「小林、電話だ」
先輩の助教岡村に言われて千雪は顔を上げた。
「よう、久しぶりやな」
その声には聞き覚えがあった。
「ひょっとして、三田村か?」
中学からの付き合いだが、声を聞くのは高校卒業以来である。
生徒会長をやった男で、高校二年の時は同じクラスだった。
「おう、久々会わへん? 俺、海外赴任ようやっと終わって、東京本社になったよって」
「ドイツやったか? こないだ桐島に会うた」
「やってな。どうせなら名探偵小林千雪のコスプレ、見たいし」
電話口で笑っているのが伝わってくる。
「何やね、それ。見せもんやないからな」
「いや、お前のコスプレ言うたら、二年の時の金髪のお姫様以来やしな」
思い出したくもない黒歴史を掘り出されて、千雪はうっと言葉に詰まる。
「無理やりやらせた本人が何言うてんねや」
「ほな、楽しみにしてるし。日にちまた連絡する」
三田村のやつ、今のコスプレ見て、絶対笑う気満々や。
二年の時、学園祭で寸劇をやることになり、みんなをうまく乗せて、千雪にドレスを着せた張本人だ。
相変わらず強引で勝手なヤツや。
それに昔から色々と三田村とは因縁があった。
どちらかというと三田村は千雪をからかうのを生きがいにしていたようなやつだが、ここのところ無意味にイラついている千雪にとっては楽しみな再会となった。
いい加減、ミステリー雑誌の原稿をあげなくてはならないと、夕方、千雪は研究室を後にして、あたふたとアパートへ向かっていた。
アパートの階段まできて、よく知っている顔が立っているのに気づいた。
「待てよ、千雪!」
無視して階段をあがろうとした千雪に、京助は声をかけた。
「あいつが帰るまで来るな、言うたはずや」
構わず階段を上がり、ドアの鍵を開けようとする千雪に追いすがり、京助は肩を掴む。
「あいつに話す」
「何を?」
千雪は振り返る。
「お前と俺のことだ」
唖然として千雪は京助を見上げた。
「何て? 第一、あんなしょうもないヤツとようダチでいられるな? 夕べ、お前の後をつけてたんか知らんけど、お前が帰った後、俺を誘ってきよったで? いかに自分が金持ちか力説して、金で釣るとか、呆れてぶん殴る気ぃもおきんかったわ」
もちろん、京助も速水が自分に言ったことを真に受けていたわけではない。
千雪が怒るのは当然だと思う。
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