真夜中の恋人35

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「お前の素性を知らないから、あいつは誤解しているんだ」
「ふーん、素性を知らなければ、俺はお前に援交目的で近づいたタチの悪い援交ボーイってわけや?」
 思い切り皮肉って千雪は京助を睨み付けた。
「そんなことは言ってねぇだろ?!」
「少なくともお前のご学友はそうとしか思われへんみたいやで?」
「俺はお前とは本気だと言った。だから、はっきり話す。俺が付き合っているのはお前だって」
 千雪は一つ大きな溜息をついた。
「千歩譲って、お前がそんなことを言うたから、あいつは援交目的の男にイカレてるらしいお前のことを心配して、俺のことお前から引き離そうとして、呆れたことを言ってきたとする」
「俺は……」
 京助が何かを言いかけたが、それを千雪は制して続けた。
「そこで、お前が実はと俺の素性を言うたとして、あいつが今度は何を言うか、大概予想はつくやろ? たかが探偵小説書きに、お前は騙されてるんだ」
 千雪は京助を見据えて断言した。
「一万歩譲って、男に騙されてるお前をまっとうにしたったろう、思て、あいつが寝ぼけたことを言うたんやとして、お前がご学友のために取るべき最良の手段は、文子さんとより戻すことやない?」
「お前、聞いてりゃいい加減にしろよ! 俺は彼女とはきっぱり何でもないといったはずだ! それ以前に、お前を……」
「でかい声出すなや!」
 千雪に睨みつけられて、京助は苦々しい顔で口を噤む。
「はっきり言うて、お前のご学友とは口も聞きたない。やから、もうこのあたりで俺ら、終わりにするんがええな。潮時や」
 京助の眼差しが険しくなった。
「俺の本気を甘く見るなよ、千雪。そこまで言うんなら、やつと縁を切る」
「アホちゃうか。誰が見たかて、その選択は間違うとるて言うやろ? 俺のためにダチと縁切りとか、この先家族に反対されたら? また縁切るん? 俺のためにとかそんなん、荷が重いし、そういうメンドイの嫌いやねん」
 しかし千雪のかなり冷たい言葉にも、京助は怯む気配はない。
「悪いな、千雪。俺はかなりメンドくさい男だからな。おまけに執念深いストーカーだ。それに俺は誰の指図も受けない。親でもダチでも、お前でもな」
 京助は千雪の顔のすぐ傍で、唸るように言い切った。
「俺に見込まれたのが運のつきとでも思っておけ」
 京助は笑い、千雪の肩を押さえつけて唇を奪う。
「く…るしい! アホ! 人を殺す気か」
 念入りな口づけにようやく息をしながら、千雪は京助を突き放す。
「原稿、上げな……帰れ……」
「上がるまでは待ってやる。ちゃんと食えよ」
 足元に落としていた袋を持ち上げて千雪に押し付け、京助は階段を降りていく。
「夕方やからええようなもんの………」
 袋を開くと、デパートで仕入れてきたのだろう、惣菜やサラダ、寿司などが入っていた。
「ほんまに、アホや……京助」
 嫌いであるはずがない。
「メンドくさいし、ストーカーやし、横暴やし!」
 だが京助の真摯な思いが嘘ではないことはよくわかっていた。
「やから、よけい、メンドいんやんか………」
 ボソリと呟いて、千雪はドアを開けた。
 
 

 


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