真夜中の恋人36

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 部屋の電話が鳴った時、チェストの上の時計は十一時を示していた。
 割と夢中になって原稿に向かっていたので、千雪はどれだけ時間が過ぎたのもわからなかった。
「え? まだ締め切りやないやろ? あ、ひょっとして三田村か」
 携帯は電源を切ってあることも多いので、三田村には部屋の電話番号を教えておいた。
「おう」
 案の定三田村からで、翌日の夜はどうかと打診してきた。
「うーん、せやな……それまでには原稿も上がるやろし、ええで。どこにする?」
 すると、車で大学まで迎えに行くという。
「来んでええ」
「遠慮しいなや」
「お前、コスプレが見たいだけやろ?」
「まあ、そうとも言う」
 電話の向こうで三田村の笑い声がする。
「桐島も一緒?」
「ああ、彼女はその前に、人と会うらしいんで。お前、知ってる? 速水とかいう学者先生。確かT大に今いてるやろ?」
「速水?! いてるけど、何で?」
 千雪は驚いた。
「うん、桐島、前にそいつにニューヨークで口説かれたらしい。それで今、彼女が東京にいてるてわかったら、連絡してきたんやて」
「口説かれたらしいて、お前、彼女と付き合うとるんやろ? 何でそんな男に会わせるん?」
 呆れて思わず声高になる。
「まあ、付き合うてるけど、お互い束縛はしない、いう取り決めしてて」
「はあ……」
 付き合い方は人それぞれだが。
 その時、千雪にはふとひらめいたことがあった。
「桐島、どこでその速水と会うん?」
「ホテルNのラウンジ、言うてたけど」
「俺、やっぱ用事あるし、店決めてるんなら直接行くわ」
「どうしても俺にコスプレ見せないつもりか?」
「そんなに見たきゃ、いつでも大学来たらええやろ」
 千雪はやけ気味に言い放つ。
「ようし、わかった!」
 嬉々として返事をした三田村に、あいつ、何を楽しみにしているのやら、と電話を切ったあとで千雪はまた呆れた。
 まあ、三田村らしいといえばそうやな。
 原稿を一旦おいておいて、さっきの思い付きをどうしたらうまく行くか、千雪は策を練り始めた。
 
 
  
 

 
 ホテルNのガーデンラウンジ、日本庭園を見渡せる窓際のテーブルに、桐島恵美は速水と向かい合って座っていた。
 長い黒髪、レースをあしらった白いワンピースの桐島は、一見して清楚でいいとこのお嬢様という感じだが、口数は少ないものの言うべき時にはしっかりとした物言いをする、高校時代からきりりとした目でまっすぐ人を見る芯の強さが表に出ていた。
 ラウンジの前のベンチで二人のようすを少し伺っていた千雪は、それは今でも変わらないな、と思う。
 二年の時、告られたことは、先日文子が話すまで、千雪は心の隅に追いやっていた。
 実際、告られたのは桐島にだけではないし、それ以上に学校だけでなく家までやってきて待ち伏せされたり、まるでアイドルの追っかけのようなことをされたりで、困惑した千雪がいい加減にしろと怒鳴ったことも一度ではない。
 その時は引き下がるのだが、しばらくするとまた同じことを繰り返す少女たちには手を焼いた。
 それでも研二がそばで睨みを効かせてくれている時は近寄ってこなかったのだが。
 今となってはそれらも高校時代の思い出といえるのか。


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