真夜中の恋人37

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 東京に出てきてからの、黒渕眼鏡にダサい見てくれの理由は、千雪が女の子に家まで追いかけられたからだけではなく、男に襲われそうになったということのトラウマも多分にある。
 別に三田村を笑わせるためにやっているわけではないのだ。
 そういえば、どうしてあの思慮深そうな文子が桐島のそんな話を人前で話したのだろう。
 自分のことならいざ知らず、友人の振られた話など。
 腑に落ちなかったのはそのことだ。
 その時、速水が笑うのが見えた。
 千雪はすくと立ち上がった。
 二人のテーブルへ桐島の後ろから近づいた。
「Mr.Hayami!」
 京助の『真夜中の恋人』が突然目の前に現れたことに、速水は一瞬呆けた顔で千雪を見上げた。
「You said you love me. but, you go out with such a woman! You’re worst!」
 英語にしたのは、せめてものほとけごころというやつだ。
 要は、桐島に聞かれたと思わせられればいいわけである。
 振り返って、えっと千雪を見つめて驚いている桐島に目配せをすると、千雪は二の句がつげないといった態の速水に背を向けてラウンジを出て行った。
 今頃、どんな言い訳をしていることやら。
「フン、ざまぁみさらせ!」
 下手くそな英語なんか使わせよって!
 速水へのちょっとした仕返しで少しばかり溜飲を下げた千雪は、三田村の指定した南青山のワインバーへと足を向けた。
 
 
  
 

 
「おう、こっち」
 店に入ると、千雪をみつけて奥のテーブルにいた三田村が手をあげた。
 モノトーンで構成されたシックな造りの店内は、会社帰りのOLやカップルなどで一杯だったが、うるさく騒ぐような学生の姿もなく、落ち着ける雰囲気だ。
「なんや、全然変わってへんやないか、千雪」
「お前はすっかりリーマンしとるな」
 いつものようにTシャツにジーンズ、ダンガリーシャツを羽織った千雪は、スーツが板についた感じの三田村を見て笑った。
「お前がいつまでもガキなんやろ。六年ぶりやのに」
「学会のお供とかの時くらいしか、スーツなんて着ないしな」
 桐島からは少し遅れるという話だからとオーダーを済ませたが、「お前、相変わらず好き嫌い多いのな」と三田村がふんぞり返って言う。
「ヒカリモノだめ、ウナギだめ、レーズンだめ、セロリだめ? まるっきりガキ?」
「うるさいな、これでも少しずつ克服してるんや。にしても久しぶりやな」
 三田村はちょっと千雪の視線を外し、「せやな」と言う。
「同じ東京に何年かは住んどったんやろ? 全く顔合わせんかったな」
 ワインが来て乾杯をした後、三田村は、フンと笑う。
「そら、お前が薄情なんやろ」
「俺に言うか? お前の方こそやろ。薄情やといえば、研二のやつもや。あいつの結婚のことも、後で人から聞いてんで?」
「そら、まあ、な」
 三田村は所在無さげに、テーブルを指で叩く。
「何が、まあ、やね?」
 何か含みのあるような三田村の言い方に、千雪は怪訝な顔をする。


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