「やから、こうして会うてるやろ? 今。まあ、飲めや」
ごまかされた気もしないでもないが、千雪は三田村がグラスに注いだワインを口に持っていく。
「そういえば、ドイツで会うたん? 桐島と」
「ああ、そ。フランクフルトのドイツ支社に最近まで二年ほどいたんやけど、去年、桐島がリサイタルで来てて、訪ねていったんや」
「それでつき合い始めたんか。よかったやん。二度目は振られなくて」
実は三田村が桐島に告って振られたと、高校時代一時噂になっていたことがあった。
すると三田村がムッとした顔をする。
「お前が言うな、お前が! そもそも俺が振られた原因は彼女、お前が好きやったからやで?」
「今さらそんな昔のこといつまでも」
「今さらなもんか、桐島、今でもお前のこと好きやし」
サラダの海老を口に運ぼうとして、千雪は三田村を睨む。
「アホ、言わんとき。もう、酔うたんか?」
「それだけやない。もっといろいろ複雑なんや」
「複雑て?」
すると難しい顔で三田村が千雪に向き直る。
「お前、今、誰とつき合うとるん?」
いきなりな質問に、千雪は戸惑う。
誰とと言われれば、京助しかいないだろう。
だが、ここで口にするのを憚られるのは、相手が男だからだ。
いや、そもそも三田村にさえ言えないというのは、何かしらのわだかまりがあるからだろう。
「何や、俺にも言えない相手ってわけ?」
いない、と言えば済む話なのに、千雪は逡巡する。
「いや………つき合うてるのかどうか、わかれへんね……何か、いつの間にか、みたいな」
一瞬、三田村は口を閉ざす。
閉ざしてじっと千雪を見つめた。
「好きなのか? そいつのこと」
妙に真顔で三田村は尋ねる。
「好きか嫌いかどっちか言うたら、好きなんやろけどな……俺のことはええやん。お前らこそ、お互い束縛はしない、て、ええんか? そんなんで」
「ええんや。今のところお互い、これからどうなるかて、楽しみでもあるし」
「ふーん、えらくさばけてるんやな」
ふうと三田村は息をつく。
「俺ら、実は同じ相手に失恋してた、同志なんや」
「何やそれ」
同じ相手?
頭の中で何か引っかかる。
「俺が桐島に告った時、言われた。本当はあなたの見てる人は私やない、て。私も同じ人を見てたからわかる、て」
「え?」
千雪は三田村の言ったことを頭の中で理解しようとして、余計にこんがらがった。
「鈍いんだよ、大体、お前は!」
「わかるように言えよ!」
「やから、ほんまは俺はお前が好きやったんや!」
つい、声に力が入ったせいで、周りの注目を一斉に浴びてしまった。
「大学に行って、つき合うた女は何人かいたけどな。相手が盛り上がると俺はもうダメで、タラシにされてしもたわ。お前のせいや、全部」
周りの目など気にするようすもなく、ガツガツと豚肉のパテを食べながら三田村は恨みがましく文句を言う。
「そんなん、俺のせいにすんなや」
千雪も今さらそんなことを言われてもとホタテをつつく。
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