真夜中の恋人47

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「アイドルまがいによその学校の女にまで追い掛け回されよったりして、懲りたんやないですか? 弁慶が離れてしもたこともあるしな」
 三田村は軽く説明した。
「弁慶?」
 速水は眉を寄せて聞き返す。
「ああ、ガキの頃からずっと千雪のガードしてたみたいなやつがいて、大学進学で離れよったから、千雪も苦慮の末の策やった思いますよ」
「なるほど……」
 まるで憑き物が落ちたように、速水は頭の中が冷静になっていくのを感じていた。
「追っかけまわすの、女だけやないし。ま、俺ら、結束固いですし、結構みんな千雪のこと好きやから、弁慶おらんでも、下手に千雪に何かしようもんなら痛い目みはりますよ?」
 茶化すように言いながら、三田村の目は笑っていなかった。
 何故、大学で小林千雪に会った時、無闇に不快そうにしていたのか。
 何故、小林千雪が飲み会を極度に嫌がったのか。
 何故、必要以上に大学で自分に敵対心を顕にしていたのか。
 その謎は瞬く間に氷解した。
 要はあの朝の出会いは小林千雪にとって最悪の出来事だったわけだ。
 しかもあいつに言った、陳腐で下卑た誘い文句、あくまであいつがてっきり、ちょっと見がいいのを利用した援交目的のガキだと思いこんだからだが………。
 まるでスキものの成金のエロオヤジみたいな口説き文句を並べ立てた俺を、思い切り蔑んだ目で見ていた理由もわかるってもんだ。
 幾ら何でも、小林千雪とわかっていたら、あんな文句を並べ立てるわけがないだろ?!
 思い返すと頭から火を噴きそうな思いがする。
 その上、桐島のことで何でこんなやつにと舞い上がってつっかかったからか、小林千雪には、しっかりやり込められた。
 待てよ、それじゃ俺は、取るに足らない心理学者の上に、金をチラつかせて援交のガキをモノにするようなエロオヤジってな烙印をあいつに押されたってことか?
 くっそ、冗談じゃないぜ!
「いや、問題はそんなことじゃないか」
「え、何ですか?」
 一人自分の思いにふけっていた速水がポツリとこぼした言葉に、三田村が聞き返す。
「いや………」
 速水はこちらに向かってくるタクシーを停めた。
「ほな、お疲れ様でした」
 三田村はイケメンだが、関西人だからかひょうきんな雰囲気がする。
 だが、時々見せる表情は案外キレ者を隠しているのかもしれない。
「麻布二丁目」
 運転手に告げると、つまりは、桐島にもすっかり騙されたのだと速水は思い返す。
 
 みんな、結構千雪のこと好きやから
 
 三田村の言葉が何やらやたらと胸に響く。
 マンションに着くと、ちょうどエントランスに入っていく住人らしい二人連れについて速水はエレベーターホールへすんなり入ってしまった。
「何の用だ、今頃?」
 チャイムを押すと、画面で速水を見ているのだろう、思い切り不機嫌そうな京助の声がした。


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