真夜中の恋人48

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「開けろ、話がある」
 実物は思った以上に不機嫌な顔で速水を部屋へ入れた。
 ボサボサの髪を引っ掻き回しながら、「何だ、話って」とリビングに向かう京助は、上下黒のジャージ、裸足でフローリングの上を歩いている。
 リビングのソファから床から、グランドピアノの上まで資料やら本やらで散らかり放題、テーブルの上のノートパソコンの横には、煙草の吸殻が山盛りになった灰皿。
「論文か? しかしこの有様、色男が形無しだな」
「うっせーよ。てめぇ、そんなこと言うために、こんな時間にわざわざ来やがったのか?」
 くわえていた煙草を山盛りの灰皿に押し付けた京助はテーブルに置かれた飲みかけの缶ビールをひと息に飲み干した。
「客には何もくれないのかよ」
 速水は上着を脱いで傍らの椅子に引っ掛けた。
「何が客だ。勝手に飲めばいいだろ」
 勝手知ったるで、速水はキッチンの冷蔵庫からビールを手に戻ってくると、ピアノをちょっとさわってからプルトップを引いた。
「スタンウェイも台無しだな。これ、かなりいいシロモノだぜ?」
「フン、お袋の形見だから置いてるだけだ。俺は弾けやしねぇし、そのうち兄貴にでも引き取ってもらうさ」
 面白くもなさそうな顔でノートパソコンの画面を睨みつけてから、速水に向き直った。
「だから、一体何の用だ? 見りゃ、わかるだろ? 俺は明日までにこいつをあげなきゃならねぇんだ」
 速水はビールをぐいと飲み、ふうと息をついてから京助を見た。
「あの夜、飲み会の、お前のあとをつけた。てっきり俺は、お前が例のきれいなガキんとこ行くんじゃないかと思ってたから、何だ、名探偵のアパートじゃないかって思って引き上げたよ。あの時はな」
 速水の妙な言い回しに京助は眉をひそめた。
「だから何だってんだ?」
「名探偵とお前ができてるなんざ、誰が思うよ? いつからだ?」
 京助は舌打ちした。
「あのやろう、俺にはしゃべったら終わりにするとか何とか言いながら、まさかお前に話したのか?」
「徹底的に嫌って軽蔑して下さってるんだ、名探偵が俺になんか話すわけないだろう? 桐島のことで頭にきて、前にあのガキが出てきたプロダクションにいったら、そこへこないだの刑事がやってきて、千雪くん、来てくれとかって連れ去ったわけだ」
「何だそりゃ? あのトンチキ頭のデカやろう!」
 苛ついて京助は渋谷を罵った。
「問題はそこじゃないだろう?」
 京助はフン、と鼻で笑う。
「ああ、わかったらもう俺らの邪魔はするな。何かあるたびに、千雪のヤツ、別れる切れるで、携帯は切るしもう会わないとくる。ったく、冗談じゃねぇ、もうとっととアメリカへ帰れよ」
「そうじゃないだろ? この先どうするつもりだ?」
「今度は、たかが探偵小説書きに、お前は騙されてるんだってか?」
「はあ?」
「お前に話すって言ったら、千雪のやつが言ってたんだよ。援交のガキに騙されてるだとか、案外お前、俗っぽすぎるぞ。想像力貧困じゃねぇのか? 心理学者のくせに」
 すると速水は長い溜息をついた。


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