「絵に描いたようなデートコースの相手は女の方がええんちゃう?」
京助はそんな皮肉にも答えようともせず、千雪の腕を掴んだまま、エレベータに乗り込み、フロントデスクのある二階のボタンを押す。
「ええ加減、離せよ」
ムスッとしたまま千雪は京助の手を振りほどく。
間もなくドアが開いて千雪は京助の後ろから降りたが、ここから電車で帰るのもうざったいし、タクシーを使ってまで帰る気力もない。
京助がフロントでサインしているうち、所在無くラウンジのソファに腰を降ろして間もなく、ポケットで携帯が鳴った。
京助か佐久間以外滅多に携帯に電話などかからない千雪は、誰だろうと不審に思いながら携帯を出すと、表示されている「俺の大事な三田村」などというふざけた文字を見て、「あのやろう! 勝手にこんなん入れよって」と思わず口にする。
「何や、このふざけた名前は! 第一、いつの間に……」
千雪は電話の向こうの三田村に声高に文句を言う。
「まあまあ、今どこや? 家に電話したらいてないし」
「横浜や」
「横浜? 何しに?」
「何の用や?」
事実を告げるつもりもなく、千雪は問いかけをさらりとかわして尋ねた。
「桐島のチケット、何人用意する? 会場行って、名前言うてもらえば入れるようにしとくし。速水さんとかも用意しとくか?」
「アホ、いるか、少なくとも俺と一緒にすんな」
事情は伝わったとはいえ、とにかく速水とは近づきたくはない。
「ほな、お前の美人の従姉の小夜子さんは?」
ピアノの演奏会なら小夜子も気分転換にいいかもしれないと、最近会っていない従姉の憂いを帯びた笑顔を思い出す。
中学の頃、京都の家に遊びにきた小夜子とたまたま門の前で出会って以来、小夜子の美しさをほとんど崇拝していた三田村だが、未だにそれは変わらないらしい。
小夜子は健気に仕事に打ち込んでいるようだが、いつぞや原の家に行った時は、無論まだ猛を失った傷は癒えていないという気がした。
あまり外に出たがらないというようなことを、伯父が言っていた。
しきりと千雪に一緒に住もうというのも、寂しさを紛らわしたいからかもしれない。
「ああ、そやな、これから話してみるけど一応、取っておいてくれるか?」
「わかった。で、お前のハニーの分はどうする?」
「はあ?」
「演奏会言うたら、可愛い恋人と一緒言うんが相場やろ? ひょっとして小野万里子とか?」
「冗談は休み休み言え」
するとしばし間があった。
「フーン、そうか、やっぱ」
「当たり前や。小野万里子なんかと俺がどうかなるわけないやろ?」
「そうやない。わかった。しゃあないな、お前のごっつい恋人の分も用意しとくわ」
「え、ごっついて、お前………」
何か言おうとした時には既に切れていた。
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