「これからやけど」
「食いに行くぞ。着替えろよ」
相変わらず命令口調で、京助は見下ろした。
「めんどいな……」
「俺もまだなんだよ」
仕方なく千雪はジャージを脱いで、椅子にかけてあったジーンズを履き、Tシャツの上にジャケットを羽織る。
アパートの門の前には築二十年ほどの古アパートには不似合いな黒のポルシェが停めてあった。
京助は大学の近くに車を置いた方が使い勝手がいいと、わざわざ近くに駐車場を借りている。
車を出す前に、携帯で店に予約を入れると、すぐにエンジンをかけた。
「どこ行くんや?」
首都高を三軒茶屋で降りて世田谷通りに入ったあたりで、千雪は訪ねた。
「うるさくねぇとこなら、いいだろ?」
車はそのまま住宅街へと入り、やがて樹木の間に大きな門構えが見えたと思うと、古風な造りの洋風建築に灯りが灯っている。
車をパーキングにいれて中に入ると、すぐに奥の個室に案内された。
「ほんまに静かやな」
窓からはライトアップされた庭園が見える。
「流行の隠れ家的な店ってやつだ。もっとも、取材受けたりしてると隠れ家でもなくなってくるがな」
和風フレンチといった料理が、凝った和食器に盛り付けされて出てきた。
コースはちょっと重いと思ったが、量的にさほど多くなかったせいか、千雪も充分食べられた。
レポートも終わったらしい京助は機嫌がよく、千雪は事件が片付いた話などをした。
「お前のレポートは終わったのか?」
「まあ、明日で終わるやろ」
車だからとミネラルウォーターにした京助に、千雪も合わせて酒はやめた。
「腹ごなしにちょっと走るか」
京助は環八に出ると第三京浜に入り、スピードを上げた。
「あいつ、三田村だったか、何の用で来たんだ?」
「桐島のリサイタル、来週末やから行こうて。今、桐島とつき合うてんのや、あいつ」
「ふーん」
一応は納得したものの、昼に千雪にちょっかいというより、もろキスでもしそうなようすだったのは、何なんだと京助はまだ気にかかっている。
だが、そんな話をちょっとしただけでそう会話もなく、やがて横浜の夜景が現れると、千雪は食事をしながらふと思った嫌な感じがまた舞い戻った。
ここも前に女と来たんやな。
洒落たレストランで食事をしたあと、横浜へのドライブ。
定番のデートコースを辿るような感じで、千雪は何となく胸の奥にわだかまっているもやもやを消化しきれずに、窓の外を眺めていた。
ところが京助が急にハンドルを切り、目の前から夜景が消えた。
車を停めたところは地下駐車場で、先に降りた京助は、降りようともせずシートベルトも外さない千雪を見て、外からドアを開けた。
「降りろよ」
「何で? 俺はこんなとこ用はない」
京助は勝手にシートベルトを外し、千雪を車から引っ張り出した。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
