「くだらん揚げ足取るなや! 文子さんにも、お前に今つき合うてる彼女いてるかて、聞かれたから、いてないて言うたった」
千雪は京助を睨み付けながら言った。
「ほう? いつの話だ?」
「飲み会の夜や。文子さんはやっぱお前のこと好きみたいやし、より戻したったらええんや。第一、遊び相手の俺になんか、女とつき合うのに言い訳なんかする必要はない。てより、お前もいっそゴールインしたらどや? 確か、文子さんてええとこのご令嬢いう話やし、お前とは家柄も釣り合うてるんちゃう? 俺、いくらでもスピーチしたるで? これまで、えろう、世話になったしな。そしたらタラシやとかゴシップ記事にされたりもないやろ」
反論もせず、京助はただ無闇と煙草をふかしている。
スピーチくらいできる。
今ならまだ。
苦しいのんはいやや。
研二の結婚式やったら、多分、ようせなんだ。
京都では甲斐性ないから、なし崩しにずるずると、京助とまた元の木阿弥になってしもたけど。
千雪は自嘲し、京助とのことも本気で終わりにしよう、そう言い聞かせた。
途端、胸の奥に鋭い痛みが走る。
何や………
心筋梗塞にはまだ早いんちゃうか?
「このままずるずると、おかしな関係続けていったかて、お互い何の得にもならん」
「言いたいことはそれだけか?」
妙に落ち着いた言葉で、京助は言った。
その時チャイムが鳴った。
煙草を灰皿に押し付けると、京助はドアに向かった。
やがて冷やしたワインやつまみが載ったワゴンを押して戻ってきた。
ワインクーラーに入った二本の赤ワインのうち一本を開けると、京助は二つのグラスに注いでその一つを口に持っていった。
「お前も座って飲めよ。わりと美味いぜ?」
皿に盛り付けられているのは、トマトやチーズなどが載ったカナッペ、黒オリーブの塩漬けやピクルス、キュウリや海草のマリネなど、どれも千雪が食べられるものばかりだ。
「最後の晩餐ってやつにしたいんだろ? お前は。だったら少しくらい余裕で楽しんだらどうだ?」
京助に軽く投げかけられた言葉は、千雪の心を瞬時に凍りつかせた。
千雪がそう望んだはずの成り行きだった。
それでせいせいする、はずだった。
面倒な感情のモヤモヤも消えてなくなる、はずだった。
ところが今、頭が真っ白になって、心だけでなく思考も停止してしまった。
ソファに腰を降ろし、ぎこちなく動く手がグラスを掴む。
指令と行動が逆になったかのように、千雪は自分で自分を見ていた。
「美味いな」
これは誰が言っているんだろう。
「風呂、入ってこいよ。ここ、風呂も夜景がすげぇきれいに見えるんだぜ?」
「フン、前はどんな女をここにつれてきたんや」
「まあな、喜んではいたが、このくらい当然ってな顔してたぜ?」
不意に、手元が狂ったように、千雪はテーブルのグラスを倒しそうになった。
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