何や? 一体どないしたんや? 俺、おかしい………
千雪は立ち上がる。
「酔うてしまわんうちに、風呂、入ってくるわ」
「ああ、そっちのドア」
千雪は言われた方へ歩いた。
ドアを開けると、ガラス張りの風呂越しに、港の夜景が飛び込んできた。
ここからはベイブリッジもくっきりと闇に浮かんで見える。
大きな風呂に湯をためながら、千雪は着ているものを脱ぎ捨てた。
シンクの鏡に映る自分の顔を眺めながら、思わず両手で頬を叩く。
「何、やってんね、俺………」
湯が溜まるまで、シャワーブースで汗を流す。
降り注ぐ湯でバシャバシャと顔を洗うのだが、まだ何やら思考が夢の中を歩いているような妙な感覚が拭えない。
湯に足を入れて身体を沈め、風呂の淵に凭れかかるようにしてぼんやり窓の外に目をやった。
軽い記憶喪失のように、さっきから頭の中が真っ白のままだ。
やから、何て言うた? 京助は…………
少しずつ、頭の中のもやが晴れていく。
最後の晩餐ってやつにしたいんだろ? お前は。
そう、言ったんや………
それはあまりにもさり気なく京助の口から出た言葉で、意外過ぎて聞き違いかと思ったほどだ。
散々、千雪が終わりにしようと言っていたわけだから、それに対して京助が肯定したところで、何もおかしいことはないのだ。
それなのに千雪自身は、京助の口から肯定の言葉が出てくることを予定していなかった。
常に全面的にごり押しに近いやり方で千雪を連れまわし、世話を焼き、そして有無を言わせず抱いた。
俺はかなりメンドくさい男だからな。おまけに執念深いストーカーだ。
俺に見込まれたのが運のつきとでも思っておけ。
臆面もなく傲岸不遜に言ってのける京助から、こうもあっさりと最後の引導を渡されるとは、思っていなかった。
いや、引導渡したんは俺か。
ああ、せや、ほんまのほんまに、これで、終わり言うこっちゃ………
千雪は風呂の淵に両腕を載せ、その上に顎を乗せた。
好きになり過ぎる前でよかったし………
今ならまたダチでいられるやろ。
これ以上、好きになってたら、また、つろなる。
別れるとき、つろなる。
卒業した時はそんなこと思いもよらんかった。
当然、そのうちに会えるて……
けど、あの時、金沢へバイクで行った時、そんなんもうないんやて
わかっとったんや、あいつ、研二は。
俺の気持ちを。
せやから、離れてった。
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