会社の七階にある自分の部屋に良太を連れて入ると、リビングボードからホワイトラムとグラスを二つ持って戻ってきた。
「座ってろ」
怒ってるんだ。
少し平静を取り戻した良太は工藤を上目遣いに見やり、ラム酒が注がれたグラスを素直に受け取る。
「大体、あんなケチなヤローに脅されて、俺がへこむとでも思っていたのか? しかもあんなナイフで大の男が殺せるか」
「殺そうなんて思ってなかった! やつに俺のこと殺させて、完全自殺計画を、その………」
反論しようとするが最後はボソボソと声が尻すぼみになる。
工藤はグラスのラム酒を呷り、フーっと大きく息をつく。
「頼むから、自分の身をそう粗末にしないでくれ」
意外にも命令形でない工藤の言葉に、良太は顔を上げた。
「だけど、だけど、もうそれしかないって思って、俺、俺…なのに、あんたは! 俺のかけてた生命保険勝手に解約しちまうし! 俺に何の断りもなく。俺が死んだら借金、誰が返すんだよ!」
良太は必死に喚く。
「だから……」と工藤はひとつため息をついた。
「万が一お前が死んで、俺がおめおめ生きていられるわけがないだろう?」
「そんなこと……別にあの時のことをあんたに恩に着せるつもりなんかねーよ。それで、俺のこと背負込むことなんかない」
良太は唇を噛む。
「バカヤロー!」
頭の上から怒鳴りつけられ、良太は思わず首を竦める。
「恩に着てるからって、わざわざ男なんか抱いて寝る趣味はない!」
「だってっ! ほんとは、ほんとは千雪さんのこと好きなんじゃないのかよ! 千雪さんとは何でもないなんて言って、ほんとは千雪さんのこと追いかけていたって、ちゃんと聞いたんだからなっ!」
工藤はちょっと言葉に詰まる。
「誰に聞いたって?」
「あの、千雪さんの相棒の京助だよ!」
すると工藤は「あの野郎!」と吐き捨てる。
「あのバカこそ千雪のストーカーだ」
「は?」
良太は工藤を睨み付ける。
「それに千雪さんて、あんたの恋人と同じ名前だし!」
良太はふてくされたようにボソリと口にした。
「誰かに聞いたのか? ちゆきとは確かに付き合っていたが、とっくの昔に死んだ」
工藤は自嘲するように言った。
「第一、やつらと昔出くわしたのはちょうど六本木あたりで、京助と千雪の痴話喧嘩の真っ最中だ」
「痴話喧嘩って何だよ?」
良太は不思議そうに聞き返す。
「やつら、俺と会うずっと前からデキてるんだぞ」
「え………えええええーーっ!」
驚いたものの、そこでごまかされないぞと、良太はじっと工藤を睨み付ける。
「俺は京助みたいないい気になって遊びまくっているお坊ちゃんが気に入らなかったから、その京助を袖にした千雪にちょっかいかけただけだ」
良太は息を飲む。
「ちょっかいってだけじゃないくせに」
簡単に引かないぞと良太はムッとした顔をする。
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