真夏の危険地帯15

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 元気は名刺を見ようともせずに、黙々と手を動かす。
「天木って言います。ファッション関係の雑誌なんですが、GENKIはちょくちょく取材させてもらっているんですよ。確かにコーヒーは美味いけど、やっぱ元気さんの天職じゃないよな」
 無言で元気に拒否されているとわかっているのだろう、自己紹介をして、天木は尚もしゃべりをやめない。
「さっきの、坂之上豪でしょ? やっぱ今もずっとつきあってるんだ?」
 天木が口にした言葉に、元気の手が一瞬止まる。
 こいつ、何で知ってるんだ? どこまで………?
 同年代かもっと若いだろうその男に、元気はちらりと冷ややかな視線を向けた。
「まあ、同性婚OKな国も多いし、ハリウッドの俳優とかアスリートなんかもカムアウトしてる時代だし、けどこの日本じゃどうかな。GENKIのファンとか、うーん、中には歓喜する女の子も多そうだけど」
「俺はGENKIとは何の関係もありませんから」
 イラつきながら元気はようやく口にした。
「またまた、GENKIのアルバム、毎回いくつかの曲は元気さんでしょ? 第一、こないだのライブだって、元気さん以外にあんな音出せないっしょ?」
 元気はそれには答えずに、カップを洗う。
「この辺り、いいですよね、自然がいっぱいで。二、三日取材であちこち行くんです。またお邪魔します」
 天木が席を立つと、紀子がレジに行った。
「ありがとうございました」
 天木を見送ると、紀子はカウンターから元気に声をかけた。
「ね、取材とか言ってなかった?」
「フン、たまに来る迷惑千万なヤカラだ」
 不機嫌そうに元気は答え、カウンターの名刺をしばし睨みつけてからポケットに入れた。
 何なんだ、一体? 何が目的だ?
 元気はどうにも不穏な面持ちで、天木の出て行ったドアに目を向けた。
 
 
  

 イラついて混沌とした頭を抱えながら朝帰りした元気は、お散歩を待っていたとばかりに尻尾を振りながら出迎えたリュウを撫でると、すっきりするために飲もうと思っていたコーヒーを後回しにして、リュウにリードをつけた。
 八時を過ぎたところだから、リュウを結構待たせてしまったようだ。
「元気、二日酔い?」
 気配を察した母親が居間から声をかけた。
「ああ、ちょっと夕べ……」
「あんた、こないだ、わざわざギター弾くために東京行ってたの? アルバイト?」
 言葉を濁して出かけようとした元気に母親が気になることを言う。
 えっ、と思わず居間まで戻ってきた元気にリュウが不承不承ついてくる。
 コーヒーを飲みながら、テーブルの前に座る母親が見ている55V型、4K画質の大きな画面にドカンと陣取る、ベネチアンマスクに金髪がギターを弾いている画像に、元気は絶句した。

 


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