無論最初から何もかもうまくいくわけではなかったが、みっちゃんが虎視眈々と準備を重ね、その広い人脈やネットをフルに使う頭脳戦略は徐々に功を奏し、メンバーは皆同格、ギャラはしっかり頭割りとなって、それぞれ意欲的に活動しつつ、現在に至っている。
元気の肩書である嘱託社員とは、以前、元気が大学の同期の披露宴に出席するために上京した際、妙な芸能プロダクション社長に目をつけられて、「幻のギタリスト」などという異名をネットに流したり勝手に元気のライブの海賊版を売買した上、元気を芸能人にしようという企みで元気が付きまとわれた経緯があり、その社長をカッと来た豪が殴り倒したこともあって、今後こんな事件が起こるとも限らないからという理由で、みっちゃんにいきなり契約書にサインさせられたのだ。
元気がGプロモーションの嘱託社員ということになれば、誰も手出しはできないということで、胡散臭いとは思いながらも同意をしてしまった。
案の定、ライブに出ろという涼子を元気は跳ね返すこともできずに、出ることになったわけだった。
株主、というのも、元気の与り知らないうちに株主にさせられて、無論みっちゃんの仕業だが、著作権料とともに勝手に配当金が振り込まれてくる。
「全く、みっちゃんには、何やらされるかわかったもんじゃないな」
元気は涼子がやって来て、あれよあれよという間に出演することになってからのことを思い出してまたため息をついた。
「みっちゃんて、古田さん? 浅野さんじゃなくて?」
「実は陰で牛耳っているのはみっちゃん。まあ、事務所は浅野が動かしているんだけど、何かって時は背後にみっちゃんがいるわけ。葛城も気をつけろよ。みっちゃん、呑気そうな顔していざとなったら容赦ないから。俺もお蔭でいつの間にやら、契約社員とかにされちまって」
元気はみっちゃんに言いくるめられてサインさせられたのも昨年の暑い夏だったことを思い出した。
「でも、すごい実力あるし、オリジナルメンバーなんだろ? 一緒にやればいいんじゃないのか?」
「いや、俺はしがない田舎の喫茶店のマスターだから」
「はあ…そう」
葛城はそれ以上は何も言わなかった。
「いい? うちのメンバーはみんな頑固で独りよがりで我儘で、こうと言い出したらなかなか聞かないから、そこんとこしっかり頭に入れといて」
涼子にそう釘を刺されているからだ。
やがてロイヤルホテルのエントランスが近づいてきた。
「忘れるところだった、一平さんからの伝言で、ホテルの最上階にあるバーラウンジに十時ということです」
元気はそれを聞いて、「は?」と聞き返した。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
