「あ、いや、それはその。そっちこそ、すげー活躍じゃん」
予期しない出来事に周りは一時騒然となり、やはりクールに沢村がさっさとスタジオを出て行くと、良太を羨望の眼差しで口々に問い詰めた。
「え、ええ、ちょっと昔知ってるってだけで…」
言葉を濁した良太を、例によって大山が、「ちょっと知ってるくらいでえらそうに」と鼻で笑う。
うるさいな、と心の中で思いつつ、良太は複雑な心境だった。
おそらく工藤はそのあたりのことをスタッフから聞いたのだろう。
スポーツ番組をやっていればいつかは出くわすだろうとは思っていたが、向こうから声をかけてくるとは思わなかった。
工藤にも誰にも話してはいなかったが、沢村は良太の中では永遠のライバルなのだ。
良太が所属したリトルリーグの川崎の少年野球チームと沢村が所属した東京、田園調布のチームは大会があるたびに何故だかよく対戦した。
初めての対戦の時のことを、良太はしつこく覚えている。
九回裏、ピッチャーの良太が沢村に二塁打を浴び、良太のチームが負けたのだ。
それだけなら、良太も沢村を目の敵にするようなことはなかっただろう。
「じゃな、へなちょこピッチャー」
「なんだとぉ?!」
別れ際、沢村に言われたその台詞に、当時から既に大きかった沢村にチビの良太が食って掛かった。
もう少しで喧嘩になるところをコーチに止められた。
めちゃくちゃ悔しくて、良太は奮起した。
以来、中学、高校でもよくぶつかった。
良太が沢村を三振にとったことだってあるのだ。
だが対戦するごとに沢村は良太につっかかる。
一度は取っ組み合いの喧嘩になり、両チームの乱闘騒ぎになるところだった。
だが、はっきりいって良太の高校では名門K大付属には歯が立たなかった。
地区予選で三回戦まで駒を進めたところで、またしてもK大付属と当たった。
それでもかなり善戦した方だろう。
意地になって向かっていった九回、沢村に与えた良太のストレートは、駄目押しのホームランにされた。
「俺に勝とうなんて、百年早いんじゃねーの?」
試合の別れ際、沢村がくれた冷ややかな台詞。
悔しいことに、K大付属はその年の甲子園で優勝こそ逃したものの、準優勝。
良太が大学でもまた野球をやりたいと必死になったのには、ドラフトでも騒がれた沢村がK大に進学したという理由もあったのだ。
エースとはいえ六大学でも最下位に甘んじているT大野球部だったが、良太には沢村を三振にとるという意地があった。
結局、大学時代三年間で、沢村を三振にとったのはたったの三回。
打率六割でヒットかホームランにされている。
だが、双方のチームメイトもどうやら二人の因縁の対決を面白がっていて、試合自体はいつも盛り上がった。
だが、それももうとっくの昔のこと。
今や、天才的スラッガーとしていずれMLB入りも噂される沢村智弘と、肩書きは芸能プロダクション社長秘書だが、その実運転手兼何でも屋の自分の立場では、良太にしてみればあまり会いたくはない相手だった。
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