夏休み7

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「あ、いや、それはその。そっちこそ、すげー活躍じゃん」
 予期しない出来事に周りは一時騒然となり、やはりクールに沢村がさっさとスタジオを出て行くと、良太を羨望の眼差しで口々に問い詰めた。
「え、ええ、ちょっと昔知ってるってだけで…」
 言葉を濁した良太を、例によって大山が、「ちょっと知ってるくらいでえらそうに」と鼻で笑う。
 うるさいな、と心の中で思いつつ、良太は複雑な心境だった。
 おそらく工藤はそのあたりのことをスタッフから聞いたのだろう。
 スポーツ番組をやっていればいつかは出くわすだろうとは思っていたが、向こうから声をかけてくるとは思わなかった。
 工藤にも誰にも話してはいなかったが、沢村は良太の中では永遠のライバルなのだ。
 良太が所属したリトルリーグの川崎の少年野球チームと沢村が所属した東京、田園調布のチームは大会があるたびに何故だかよく対戦した。
 初めての対戦の時のことを、良太はしつこく覚えている。
 九回裏、ピッチャーの良太が沢村に二塁打を浴び、良太のチームが負けたのだ。
 それだけなら、良太も沢村を目の敵にするようなことはなかっただろう。
「じゃな、へなちょこピッチャー」
「なんだとぉ?!」
 別れ際、沢村に言われたその台詞に、当時から既に大きかった沢村にチビの良太が食って掛かった。
 もう少しで喧嘩になるところをコーチに止められた。
 めちゃくちゃ悔しくて、良太は奮起した。
 以来、中学、高校でもよくぶつかった。
 良太が沢村を三振にとったことだってあるのだ。
 だが対戦するごとに沢村は良太につっかかる。
 一度は取っ組み合いの喧嘩になり、両チームの乱闘騒ぎになるところだった。
 だが、はっきりいって良太の高校では名門K大付属には歯が立たなかった。
 地区予選で三回戦まで駒を進めたところで、またしてもK大付属と当たった。
 それでもかなり善戦した方だろう。
 意地になって向かっていった九回、沢村に与えた良太のストレートは、駄目押しのホームランにされた。
「俺に勝とうなんて、百年早いんじゃねーの?」
 試合の別れ際、沢村がくれた冷ややかな台詞。
 悔しいことに、K大付属はその年の甲子園で優勝こそ逃したものの、準優勝。
 良太が大学でもまた野球をやりたいと必死になったのには、ドラフトでも騒がれた沢村がK大に進学したという理由もあったのだ。
 エースとはいえ六大学でも最下位に甘んじているT大野球部だったが、良太には沢村を三振にとるという意地があった。
 結局、大学時代三年間で、沢村を三振にとったのはたったの三回。
 打率六割でヒットかホームランにされている。
 だが、双方のチームメイトもどうやら二人の因縁の対決を面白がっていて、試合自体はいつも盛り上がった。
 だが、それももうとっくの昔のこと。
 今や、天才的スラッガーとしていずれMLB入りも噂される沢村智弘と、肩書きは芸能プロダクション社長秘書だが、その実運転手兼何でも屋の自分の立場では、良太にしてみればあまり会いたくはない相手だった。

 


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