忘れているか、或いはまた嫌味の一つも言われるだろうと覚悟はしていたが、沢村の反応は案外あっさりとしたもので、良太は少々気が抜けた。
本当は出演交渉も良太の仕事なのだが、ディレクターにさり気に依頼してしまったのも、ただでさえマスコミ嫌いなのに、自分が出て行って断られることを恐れたからだ。
今回の取材も、存外気軽に引き受けてくれた。
チームも乗りに乗っていることではあり、もちろん多少の嫌味は覚悟の上で向かうつもりだが、何か言われたらカッとなりそうで、良太はそれがちょっと心配なのである。
「おい、良太」
はっとしてバックミラーを見ると工藤が難しい顔を向けている。
「どうした? さっきから何を考え込んでいる?」
「え、いえ、別に」
「お前が考え込むとろくなことがないからな。言いたいことがあるんならさっさと言え」
「ほんとに何もありませんて。いや、ほら、セミのこと考えてたんです」
良太は慌てて取り繕うために、咄嗟に延々と鳴き続けるセミを持ち出した。
「セミ?」
「やつら、六年もかけて地上に出てくるくせに、ジンセイを謳歌するのってたった一週間っていうじゃないですか。だからあんな必死で鳴くのかな、とか………」
「んなもん、自然の摂理ってやつだから考えたって仕方ないだろう」
身も蓋もないだろう、それじゃ。
「もっとこう、情緒ってもんがないのかね、このオッサン」
「何だって?」
「いえ、こっちの話です」
沢村は今まさに大輪の花を咲かせ、さらなる飛躍を遂げるのだろう。
比べる由もないのだ、それぞれの人生なのだから。
大投手になり損ねて、俺がこの情緒のかけらもないオヤジに人生捧げることになったからって。
セミだって最後の一週間を必死に生きてるんだからな。
まあ、そのうちポイと捨てられることになったとしても、それまではがむしゃらに尽くすしかないよな。
このオヤジに。
「じゃ、行ってらっしゃい、気をつけて」
「おう」
港内に消えていく工藤の背中をしばし見送ると、良太はエンジンをかけ、会社へと取って返した。
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