夏を抱きしめて16

back  next  top  Novels


 新郎新婦までも興味深々で将清と江川の話に耳を傾けている。
「豪の作品展に、お前の写真、あっただろ?」
「豪の? ……ああ」
 将清の口から今日は遠ざけていた豪の名前が出て来たことで元気は俄かに眉を顰めた。
 最近売り出し中の坂之上豪の作品展があり、元気も一度上京して途中まで見たが、今話題に上がっている元気の写真は、写真集で見ただけで、まだ実物にお目にかかっていはいない。
「あれが幻のギタリスト、元気と同一人物だという噂が流れて、そこに目をつけたいくつかのプロダクションが本人を探してるとか」
「冗談……」
 笑い飛ばそうとした元気だが、「あそこにどう見たって堅気じゃねーオッサンいるだろ?」そう将清に言われてチラリと指し示された方をみると、いかにも業界人という雰囲気の男が煌びやかなドレスの女たちと歓談している。
「あいつ、赤坂プロダクションって、人気タレント抱えてる事務所の社長だが、気をつけろよ、ずっとお前のことジロジロ見てたぜ」
「そういえば、俺も気になってたんだ。高いところからだとよく見えたから。元気の知り合いかと思ってたけど」
 佐野までがそんなことを言い出し、元気はげんなりする。
「やめてくれ。バカバカしい」
 大学の仲間が中心になって一騒ぎ終えた頃、二次会はお開きとなった。
 新郎新婦がホテルへ戻ったあと、江川や将清と久しぶりに飲むかという話になり、飲んだくれたいくらいの心境だった元気は「どこ行く?」と率先して歩き始める。
「『アクア』にするか?」
「西麻布の? そうしよう」
 将清の提案に江川が頷く。
「もちろん、将清のおごりだな?」
「任せろよ、元気。たまの東京だもんな」
「『アクア』なら、お前んちにこの引き出物置いてからにしないか?」
 江川の提案で、三人とも自分たちが大きな引き出物の紙袋をさげたままなのを思い出す。
 タクシーを停めようとした将清に、「悪い、ちょっと俺電話しないと」と元気は辺りを見回すが最近電話ボックスなど減るばかりで、近くにありそうにない。
「携帯は?」
「兄貴んちに忘れてきたんだ」
 本当はわざと置いてきたのだ。
 持っていたら持っていたで気が散って披露宴どころじゃなかったからだ。
「何だ、俺の使えよ。聞かれてまずい電話でもないんなら、車に乗ってからにしろよ」
「まずいもんか。じゃ、貸してくれ。兄貴に一応電話入れとかないと」
「お前って、未だにブラコンな」
 携帯を渡しながら将清が言う。
「悪いか」
 開き直るでもなく元気は言い返す。
 程なく停まったタクシーのトランクに引き出物を入れ、三人はタクシーに乗り込んだ。
「あ、兄貴? 俺。将清たちともう一軒飲みに行くからもちょっと遅くなるんだけど」
「おい、どうせならうちに泊まれよ。お兄さんたちに起きて待っててもらうの、申し訳ないだろ。用賀なんて、タクシー代もバカにならないぜ」
 携帯で話している元気の腕を引っぱって、隣の将清が口を挟む。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます