しかも豪は、郷里に引っ込んで居座ってしまった元気のために元気の実家に近い農家を買って移り住んだ。
だが、仕事の拠点は東京で、国内はもとより世界中を飛びまわって仕事をしている。
だから半年といっても、お互い顔を見ない日の方が多い。
井上美奈子の撮影は数カ月前だった。
そのことは元気も豪からも聞いている。
今はやはり俳優の写真集の撮影で東京にいるが、今度は女優ではなく、俳優、川口朔也のはずだ。
以前、朔也が「伽藍」を訪れて以来、朔也が元気の高校の先輩だということもあって、たまに朔也から連絡があるが、朔也のプライバシーにかかわることでもあり、朔也の撮影をするとは聞いたものの、豪には朔也と顔見知りだとは話してはいない。
いずれにせよそれがどうして今頃井上美奈子とのスクープになっているのかはわからない。
「うーん、これから店を手伝ってもらうのも考えものだな」
母にともなく、なんだかあまり考えもせず、元気は口にした。
スクープが気にならない、というわけではない。
さもありなん、というのが素直な感想だ。
「なんなのよ、たかがちょっと写真とってもらったくらいで、あの女!」
「まあ、男ならあんな女を前に手を出すなってのが無理かも」
きりきり息巻いている紀子は元気の科白に、「何よ、それ!」とくってかかる。
「いやあ、俺も人のことを言えた義理じゃないしな~」
過去の行状からして。
寄れば食う、去る者は追わず、なんて時代もあったし。
「ったく! どいつもこいつも! だから男ってイヤ!」
怒りの渦は、収まりがつかないようすだ。
「男ってイヤ、か…」
仮に豪と彼女がそういうことになったとしても、それもありか、と元気は苦笑する。
来る者は拒まずとはいえ、相手がいる場合は別だ。
元気はヒトのものを盗ろうと思ったことはなかった。
それが、結果的に当時豪とつき合っていた優花から豪を奪うカタチになってしまった。
しかもそんな豪を一度は捨ててこの街に逃げ帰ってきた自分に、井上美奈子とのことをやっかむ資格はないだろう。
だが、目の前でいちゃつかれているわけではないから、冷静そうにそんなことを考えられるのかも。
さしずめ、船乗りの夫の帰りを待つツマ、といったところか。
って、アホか、俺は!
「元気、元気って、電話!」
一人突っ込みをして自分に呆れていた元気は、紀子の声にようやく我に帰る。
「豪から。ちゃんとびしっと言いなさいよ!」
世話焼きおばさんのような口調で、店の電話の受話器を差し出しながら、紀子は客の手前小声で元気の耳に囁く。
「元気! 誤解すんなよ! 俺は潔白だからな」
受話器を受け取った途端、電話の向こうで、豪が声を張り上げた。
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