兄の家に持っていくケーキやワインを買っているうちに、ズボンの裾出しのお直しもできたので、元気はそれを受け取ると、たったか地下に降りて田園都市線に乗る。
ホテルを取ろうかどうしようか決めかねている時、ちょうど入った兄の勇気の電話で、母親が友達の結婚式に行く元気を泊めてやってなどと言ったものだから、用賀に住む兄の家に行くことになってしまったのだ。
母からの土産も宅配便でもう届いているはずだ。
迷惑かけないようになんて言われるくらいなら、ホテルの方がラクだったのに、とも思うのだが。
「えっと、電話、電話……」
用賀の駅に着くと、元気はポケットから携帯を取り出して電源をオンにし、兄の携帯を呼び出した。
すぐに迎えに行くから、待っていろ、と勇気は言った。
T大を出て外務省に入り、海外駐在員も経験した兄の勇気が友人とIT関連の会社をやるとお役所を辞めたのは一年程前になる。
ITコンサルタント、つまり、国内外の企業向けのマーケティング、システム戦略などのコンサルタント業である。
母は、何も安定した仕事を辞めなくてもとちょっとぼやいたこともあるが、今は何とか軌道に乗りつつあり、住居も以前住んでいた中目黒から用賀のマンションに移った。
「ごめんね、急に。ひょっとして俺のために仕事休ませちゃった?」
「心配はいらないよ。会社は青山に事務所を借りているんだけど、自宅でも仕事はできるんだよ。俺の担当は大概海外とのやりとりだからね。詩織にもWEB関係手伝ってもらってるし」
兄の勇気は父親からしっかりした体つきと優しい風貌を受け継いだ。
もちろん気が長くて優しい性格も父親譲りで、元気を可愛がっていたし、兄が結婚してからは妻の詩織に遠慮して、いつもいつも兄に頼ることはしなくなったが、元気にとっては唯一甘えられる対象でもあった。
「いらっしゃい、暑かったでしょう」
元気のアイドル的な騒がれようとは違い、正統派な男前で昔から女子にも人気があった勇気が選んだ詩織は、超美人とかいうのではないが、健康的な可愛い人で、何があってもあくせくしない大らかな明るさが魅力だ。
やんちゃ盛りの二人の息子は元気にとってはガンだが。
車なら駅から三分とかからないところにあるマンションの五階に、勇気一家は住んでいた。
三LDKのリビングの一角に観葉植物をパーテーションにしてコンピューター機器がゆったりと並び、勇気のオフィスになっている。
「今度はお部屋もあるから、ゆっくりなさってね」
案内してくれた部屋は六畳ほどで客間になっているようだ。
以前の家は2LDKで、一度元気が泊った時は居間のソファだった。
二人の小さなギャングどもの襲来に眠るどころの騒ぎではなかった。
それを思い出すと、今の状況にちょっとほっとして、明日の披露宴に来ていく服をハンガーにかける。
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